その歌声に
「ええ、ディアーナが唄うの?神殿で!?」
「あの大人数の前ででしょう?想像しただけで緊張しそうです」
メイとシルフィスが、お茶のカップを手にしたまま目を丸くする。一方ディアーナは、クッキーの皿に手を伸ばしてやんわりと笑った。
「時々ですけど。私が物語の詠唱をしている所は、聞いた事がありますでしょう?
神殿に伝わっているエーベ神をたたえる歌があって、それを唄うんですわ」
穏やかな昼下がり。特に提出期限の迫った課題もなく、訓練の予定もなく、家庭教師の出した宿題もたまたま片付いていた三人は、
ばったりと王宮の書庫で顔を合わせた。
皆、今日はもう何も予定がないと言うので、ディアーナが午後のお茶に誘ったのである。
一人で飲むお茶は味気ない―――たまに兄が付き合ってくれるが、それはそれで気が抜けない―――が、
気心の知れた女友達同士で茶を飲んでいると、それだけで楽しいものだ。
お互いの課題の内容やら、訓練の様子などを話し合っている時に、ディアーナのお務めの話になった。
彼女は王家の一員として生まれた事に既に意味がある。
外交の場では情報源になり、ある時は人質となり、そしてまたある時は切り札として生きる事が義務付けられるのだ。
ディアーナは特に『巫女姫』という役目をも担っているので、月に何度かは神殿でエーベ神の物語の詠唱を行うのが常だった。
「ところでディアーナって、どうして巫女姫なの?王女だから、自動的にそうなる訳?」
メイが以前から疑問に思っていたことを口にする。
誰でもなれるという訳ではないだろうが、だからと言ってディアーナのお務めを見ている限り、それ程難しい資格が必要だとも思えない。
「いいえ。王女だから巫女姫と言う訳ではありませんわ。お姉様は神殿でのお努めはしていませんでしたし」
おとがいに手を当て、ディアーナが答えた。
「それではやはりディアーナ様に、何か素質があったのでしょうか?」
「どうなのでしょう?でも神殿でのお努めを始めたのはずっと小さな頃でしたから、私では詳しい事はよく判りませんわ」
「そんなに小さな頃から?」
この数年の話かと思っていたので、メイが驚いて聞き返す。
「ええ。物心ついた頃には、月に一度は神殿でお努めをしていましたのよ」
そう言って、ディアーナはにっこりと笑顔を浮かべた。
「なんかさあ、本人も判らない程小さな頃から神殿でのお努めしてるって……不思議だよね」
王宮からの帰る道すがら、メイはそうシルフィスに切り出した。
例えばピアノ等の楽器の習い事を、自分の足で立てるようになるとすぐに始めさせる親は、メイの世界でも確かに居た。
一日練習を休むと三日分腕が鈍るからと、猛練習をさせられていた友達を、幼心に気の毒に思った事もある。
自分の親は無理強いはしない性質で、自分で続けられる自信があるのなら、習い事は自由にさせてくれた。
実際には何処かに習いに行く事はせず、母から手習いでピアノを教わった程度ではあったが、
お陰様でメイもバイエル程度なら何とか弾く事は出来る。
「代々神官の家系ならば、ごく幼い頃に誓いを立てて、一生を神殿で過ごすと言う方も稀にはいらっしゃいますけど……」
ディアーナの場合、一生を神殿で終えるという事は在り得ない。
本人の気質もそうだが、王家の女性の婚姻は立派な外交の道具なのだ。
男性なら国に残って政務を執る道もあるが、女性は自国にとってより有利な国、家系に嫁いでこそ意味がある。
ごく稀に純粋な恋愛の結果がより良い縁組になり得る事もあるが、ほとんど無いと言うのが実情だ。
ディアーナ自身、幼い頃に出逢った少年に想いを寄せているようだが、
彼と一緒になる事はまず不可能だろうと、兄であるセイリオスを始め周囲の者は考えている。恐らくは、ディアーナも。
希望を持つのは自由だが、それが叶うとは限らないのが現実なのだ。
いずれそう遠くない将来、彼女も隣国へ輿入れする事になるのだろう。
「じゃあやっぱり、何か素質があったのかな?子供の頃にその才能を見出されて、神殿でお努めするようになったとか」
「本来なら誓いを立てて一生神殿で過ごす所を、ディアーナ様は王女だから、月に何度かのお努めに留めていると…?」
うーん、と二人で唸ってしまう。
メイもシルフィスも、王都に出て来て日が浅い。メイに至っては、王都どころかこの世界に召還されたのがほんの数ヶ月前なのだ。
クラインの人間ならごく当たり前に知っている事でも、知らない事は幾らでもある。
「確かにディアーナは声も綺麗だし、歌も上手だと思うけど……飛び抜けてって事はないよねぇ」
声楽を専門にしている者なら、彼女以上に達者に唄う者は大勢いる。
実際神殿にはお抱えの声楽隊が居て、神事に関わる歌などは普段彼らが唄っているのだ。
敢えてディアーナを引っ張り出してくる理由が思いつかない。
「よし、決めた。判らない事は調べよう!」
「は!?」
唐突にポンと手を叩いて宣言したメイに、思わずシルフィスが間抜けな声を上げる。
「余計な事は詮索するなってよく言うけど、別にこれは調べて悪い事じゃないと思うのよね。ディアーナは堂々と衆目の前でお努めしてるんだし」
「それは…まぁ」
ディアーナが神殿にお努めに出ている事を知られたくなければ、彼女の顔を晒す筈がない。
彼女の素性を隠していないという事は、その理由を知る事は出来る筈だ。自分達が知らされる事が、真実とは限らないまでも。
「ディアーナの迷惑にならない事なら調べてみよう。
それで、もしもあまりあたし達が首を突っ込んじゃいけないような情報が出てきたら……その時は、この話はすっかり忘れようね」
メイも数ヶ月王都に暮らし、ディアーナやセイリオスといった王家の者と関わる事で、彼らの微妙な立場は理解している。
好奇心が、時に身を滅ぼす事も。その辺りをわきまえての事なら、大事にはならないだろう。
「判りました。それなら、私は騎士団の方で調べてみましょう」
そう言って、シルフィスも頷いた。
レオ二スを始め、騎士団には古くから王都に住み、王家に忠誠を誓う者が数多い。
意外に核心に触れる話が聞ける可能性もある。
「それじゃ、あたしは魔法研究院の方で何か判るか調べてみるよ。こっちは食わせ者が多いから、多分一筋縄じゃいかないと思うけど」
知っていても、そ知らぬ顔で『知らん』と言い放つ連中がゴロゴロいる場所だ。
だが、伊達にメイも同じ水を飲んでいる訳ではない。簡単に諦めるつもりはなかった。
「知らん」
「言うと思ったわよ〜〜〜」
ディアーナが神殿でお努めを始めた経緯を、キールに尋ねた第一声がこれである。
予想の範囲内だったので、メイも然程腹を立てない。
大体、キールが王都に出て来たのも数年前の筈だ。ディアーナの子供の頃の話など、本当に知らないのだろう。
「じゃあ、キールが王都に出て来た頃には、もうディアーナは神殿でお努めしてたんだよね?」
質問を変えると、彼が広げていた魔道書から顔を上げ、顎に手を当て考え込む。
「……俺は滅多に神殿なんぞには足を運ばないから、はっきりした事は判らんが……確か、その筈だがな」
キールは下手をすれば数年に一度しか神殿に足を運ばない。
従ってディアーナの姿を神殿で見た事はなかったのだが、話には聞いていた。
王家の第二王女が、月に何度か神殿のお努めに出ていると―――
「そっか……じゃあ、他に古い事を知ってそうなのは、後はシオンくらいかな」
亀の甲より年の功。シオンなら、王家に関わる話なら大概の事に通じている筈だ。
騎士団関係はシルフィスが当ってくれているが、多分、シオン筋の方が脈があると思う。
「おい、お前一体、何を探ってるんだ?」
キールの片眉が上がる。手も予算も掛かるこの被保護者は、またしても何を企んでいるのやら。
だがメイは存外真面目な顔で、返事を返した。
「うーん、純粋な好奇心だよ。大丈夫。ディアーナ達に迷惑が掛りそうな話になったら、ちゃんと手を引くから」
「……課題の提出期限は延びんからな」
難しい顔をしたままのキールに、メイは胸を張ってブイサインを作って見せる。
「大丈ー夫。今週分はもう済んでるもんね♪それじゃ、ちょっと出かけてくるねーー!」
呼び止める隙を与えず、メイは身を翻してキールの部屋を出て行った。
いつもなら『課題』の二文字に足が止まるのだが、今回は彼女の方が上手だったようである。
ややこしい事にならなければいいが。
溜息を一つついて、キールは自分の額に手を当てた。
「姫さんが神殿でお努めを始めた経緯を教えろだぁ?」
「そう。シオンなら知ってるでしょ?」
再び王宮に戻ったメイは、庭園で植木バサミを手に薔薇の手入れをしているシオンを見付け、声をかけた。
「そりゃ、姫さんは王家の人間だからな。王族の務めってヤツだよ」
さらりとシオンは応え、それで話を終わりにしようとしたが、肝心のメイが食い付いて来なかった。
「嘘ね。『王女だから巫女姫と言う訳じゃない』って、ディアーナが言ってたもの。
お姉さんも殿下も年に何度か神殿でお努めをする事はあっても、ディアーナみたいに月に数度って事はなかった筈だわ」
シオンが、ちっと舌打ちしそうな顔でメイを見下ろす。
「……何でそんなに姫さんのお努めの事が知りたいんだ?」
「キールにも聞かれたけどね。本当にただの好奇心なのよ。
どうしてディアーナが、物心つくかつかないかのそんな小さな頃から、神殿でお努めをする事になったのか。
でもディアーナが神殿でお努めをしている事は、クラインに住んでる者なら誰でも知り得る。つまり、隠された情報じゃないのよね?
だったら、調べてみても……多分、害はないと思って」
メイが軽く背後を振り返ると、黄金色の長い髪を靡かせてこちらに駆けて来るシルフィスの姿が見えた。
「何だよ、シルフィスまで噛んでるのか」
今度こそ、シオンが煙たそうな表情を浮かべた。
「あったりまえでしょ。王女様であるディアーナの、数少ない親友なんだから、あたし達は。で、どうだった?シルフィス」
隣に並んだシルフィスに目配せする。
「いえ、こちらは目ぼしい情報は何も。貴女を尋ねて研究院に行ったら、キールがシオン様の所だと」
「あんにゃろう……今度骨折り損な依頼回してやる」
シオンがブツブツ言っているが、メイの知った事ではない。
「さ、チャキチャキ話して貰いましょうか。ここじゃ話しにくいって言うなら、何処かに移動したっていいわよ」
「……しゃあねえなぁ。嬢ちゃん達、絶対に他言無用だぜ?」
「勿論」
シルフィスが頷く。メイも倣った。それを確認して、シオンがくいっと神殿を指差した。
「話は神殿で。俺も先代から伝え聞いただけだ……詳しい話は、神官長がご存知だよ」
「何からお話しましょうか……」
突然訪ねたシオンを、神官長は嫌そうな顔もせず自分の私室へと通してくれた。
用向きを聞いて少しは驚いた顔をしたものの、メイとシルフィスは信用が置けるからと聞くと、元の穏やかな表情になる。
手ずからお茶を用意すると、カップを皆の前に置いていった。
「ごめんなさい。ひとつ先に確かめておくけど、今から聞く話は王家や国の存亡に関わる話じゃないわよね?
あたし達は命をかけてまで、知りたい訳じゃないのよ」
メイの言葉に、年老いた神官長は目を細めて笑顔を浮かべる。
「ああ……そう言った事はないから、安心して聞かれるがよろしかろう。
ただ、シオン殿にも念を押されたとは思うが聞いた後はどうぞ内密に。それが最良策ですので」
「それがよく判らないのよね……」
王家の存続にも国の存亡にも関係ないのに、敢えて他言無用だというのなら、余程荒唐無稽な話なのだろうか。
ただの好奇心のつもりだったが、自分は何かとんでもない事に首を突っ込んでいるのかもしれない。
「話は、十年以上前……今は亡き王妃殿下、マリーレイン様が御存命だった頃のお話です―――」
マリーレインはディアーナを出産した後、すっかり身体を弱くしてしまった。
生まれたばかりだった娘と共に離宮で過ごし、そこで数年静養していたのだという。
「じゃがディアーナ様が3歳におなりになった直後だったでしょうか……風邪をこじらせ、マリーレイン様は危篤になられた」
病篤しの報を受けて、王都の国王やセイリオス、姉のセレーナも離宮へ駆け付けた。
神官長と、シオンの先代の筆頭魔道士も同行した。
幼いディアーナは昏睡状態にあった母のベッドの傍について、ずっと離れなかったのだという。
「国王陛下とご兄姉が到着された時には、既にマリーレイン様のご意識は無かった。
小さなディアーナ様は母君の手をしっかり握られて、枕元についておられた」
目覚めぬ妻と母の傍で皆は覚悟を決め、静かに最期のその瞬間を待っていた。その時―――
「ディアーナ様が、突然歌を唄い始めたんじゃよ」
それは母から聞き習った、神殿で唄われる歌だった。
幼いディアーナは知る由も無かったが、創造神の奇蹟や偉業を謳ったその歌を、
拙いながらも澄んだ声で、母を力付けるかのように唄い続けたのだという。
「それから間もなくじゃったよ…マリーレイン様が奇跡的に持ち直して、意識を回復なさったのは」
神官長は、そう言って目を伏せた。
亡き王妃は何処が悪いという訳ではなかったのだが、少しずつ体力が落ち、風邪にも耐えられなくなっていた。
医者にも最早どうにも出来ず、回復魔法は気休めにしか過ぎなくなっていた王妃を、一時的にでも救ったのは幼い愛娘の歌声―――
「一時的という事は……やはり、完全にマリーレイン様は回復なさらなかったんですね?」
確かめるように口にしたシルフィスに、神官長は頷いて見せた。
マリーレイン王妃が既に故人となって久しい事を考えれば、奇蹟が一時的に過ぎなかったことは判る。
「確かに、少しの回復は見せられた。じゃがそれも数週間の事……
ただマリーレイン様の最期のお顔は、陛下やお子達に看取られて、とても安らかなものじゃった。まるで、ただ眠っているだけのように」
同じ最期を迎えるのなら、やはり愛する人たちに看取られるのが本人にとっては幸せだったのだろう。
その意味で、母の寿命を僅かでも延ばしたディアーナの歌声は、確かに奇蹟に値するかもしれない。
「それで、その一件があったから、ディアーナの歌声の恩恵に預かろうと神殿でのお努めを始めさせたの?」
神殿には不特定多数の人々が集まる。
心を病んだ人、身体を悪くした人、純粋に神に祈りを捧げに来る人、実に様々だ。
ディアーナの歌声に神秘の力があるから、彼女はお努めを勧められたのだろうか。
「うむ……全く無関係ではない。
マリーレイン様の為にディアーナ様が唄っておられた時、私も先代の筆頭魔道士も、姫様のお声に不思議な力を感じた」
自分はそれを『神秘の力』と呼び、筆頭魔道士は『歌声に付随する魔力』と表現した。
表現は違っても意味する事は同じ―――ディアーナの声には、癒しの力があるのだと―――
「じゃが、そのお力は必ずしも発揮される訳ではない。姫様の精神状態にも大きく左右される事が、その後の内密の調べで判っての。
陛下と私と、先の筆頭魔道士で相談した結果、かの力の事は姫様本人には伏せる事にしたんじゃよ」
「え、どうして?力がある事が確かなら、報せて自覚して、ちゃんと訓練したら、もっと大きな成果になるんじゃないの?」
「そう言う考えも、確かにあった。じゃが、根拠の無い事は出来なかった。
無意識だからこそ、発揮される力と言うものもある。自らの力を知る事で、その力そのものが喪われてしまっては意味が無い。
じゃから姫様の場合も、真実を告げる事が最善とは思われなかったんじゃ」
ディアーナの歌声に秘められた力は、セイリオスや、他国に嫁いだセレーナも知らない。
父王と、神官長と、そして先代が亡くなる時に話を聞いたシオンのみが知る秘密だったのだ。
「姫様はご自分の歌声に秘められたお力には気付いておられない。
じゃが幼い頃から月に数度神殿でお努めをする事はもう習慣になっていて、その事は姫様も、もう不思議には思ってはおらんようじゃ。
日々神殿や、怪我や心の治療の為に研究院を訪れる者達の中から望みのありそうな人たちを見付けたら、
さりげなく姫様が御勤めをなさる時に神殿に礼拝に来るようにと……遠回しに、気を配っているんじゃよ」
神殿に礼拝に来て、もう駄目だと言われていた病気や怪我が快方に向かったと言う話は、時折聞く。
しかしそのうちの何人かは、ディアーナの歌声に癒されていたのだ。
まさか王女の歌声に、そのような力があると気付いた者はいないだろうが。
「皆、真摯な信心が病や怪我を快方に向かわせたと思っておる。じゃが、それでいいんじゃろう。
過ぎた力は身を滅ぼす。このまま表に出る事無く、秘めた力として存在するべきなんじゃよ」
例え衆目に知られなくとも、間違いなくディアーナの歌声には癒しの力がある。
その事実が存在するだけで良いではないかと―――そう言って、神官長は穏やかな笑みを浮かべた。
「ディアーナの歌声に、まさかそんな力があるとはね。ビックリだわ」
「完全に把握出来ている力でもありませんし…
姫様の精神状態で左右されるのなら、確かに過大な期待を掛けられれば、かえって悪い結果になると思います。
内密にと明らかにしなかった陛下や神官長のお考えは、きっと正しいんですよ」
この話は口外しないと約束して、メイとシルフィスは神殿を後にした。
凄い話だとは思うが、黙っていた方が良い事はよく判っている。
「あたしの住んでた世界にもね、『言霊』って言葉があるのよ」
「言霊?」
シルフィスが耳慣れない言葉に首を傾げる。
「こっちの言葉じゃ、やっぱり言葉に魔法の力が篭もるっていう意味になるのかな?
例えば悪意を持って相手を罵れば、その相手が実際に傷付いたり。
逆に絶対に叶えるんだって願いを言葉にしたら、本当にその願いが叶ったり」
ディアーナの場合は、この力が良い面にだけ出て来ているのだろう。
「それにしても、ディアーナもなかなかどうして、ただの王女様じゃなかったって事ね」
メイが王宮の方を振り返り、苦笑を浮かべた。
色んな意味で型破りで、たまに自分とタメを張るくらいとんでもない事をしでかしてくれる、お茶目なお姫様。
明るくて、純粋で、そして心優しい―――自分とシルフィスの親友。
異世界から召還された自分と、神秘の種族と言われるアンヘル種族のシルフィス。
ディアーナだけは、出自は特別かも知れないが、それでも普通の女の子だと思っていた。つい、昨日までは。
「ディアーナは、もしかしたら凄い力を持ってるのかもしれないね。今まで自分から望んでいないだけで……
心から望んで、その願いを言葉にすれば―――もしかしたら、どんな願いでも叶えてしまう力を秘めているのかもしれない」
いつか、少しだけ話してくれた。記憶の一番深い所にある、黄金色の髪の少年の事―――
彼女がその想いを言霊にして願い続ければ、叶う日は来るのかもしれない。
「……姫様の願いが、叶うといいですね」
シルフィスも立ち止まり、王宮を振り返る。
王族とは、国を守り、国民の為に生きるもの。だが時には、自分の願いを叶える事も考えていい筈だ。
「そうだね……いつか、きっと」
大切な親友の、本当の願いが叶いますように。
彼女達のささやかな願いが叶い、ディアーナが成長した少年と運命の再会を果たしたのは―――それから数ヶ月後の事であった。
【FIN】
あとがき
誰が主人公なんだろう?(笑)一応ディアーナなのかな…まさか神官長ではないよな(^_^;)
ディアーナの姉の名前、セレーナで合っているのでしょうか?
思い当たらなくて思わずネットで検索したら、唯一一件だけHITして、そこにこの名がありました。
そこが間違っているとは言いませんが、そこの管理人さんも『セレーナでしたよね?』と疑問形だったもんで(笑)
もしも間違っていたらゴメンナサイ。連絡頂けたら修正しますので、駄目出ししてくださいまし。
打ち始めてから終わるまでは数日掛かってたんですが、最後の三分の一程は数時間で仕上がりました。
しかもほとんど自動書記状態(笑)聞いてたMDの影響かしら…私の大好きな、ヒーリング系の音楽だったんですけど。
CHANTっていう、教会で聞くような(しかし実家も嫁ぎ先も仏教系)聖歌です。
でも教会でのお努めの話だったんだから、まさしくタイムリー?(笑)
麻生 司