To a dear friend


『シリウス、僕は君に謝らなければならない事がある。

 ジェームズとリリーが亡くなった……あの日の事だ。

 

 十三年前のあの日。僕は、秘密の守人であった君が裏切ったのだと思った。
 君が裏切ったのでなければ、どうしてあの二人が死ぬのだろうと。

 ……ジェームズ達の死と、君が裏切ったのだという誤解は、僕を絶望のどん底に叩き込んだ。
 レディエラは必死で君は無実だと訴えたけど―――あの時の僕は、聞く耳を持っていなかった。

 もしもあの時、彼女が君の子を身篭っていたと知っていたなら―――彼女をあそこまで追い詰める事はなかっただろう。
 言葉は時に暴力よりも深く人を傷付けると言うけれど……あの日の僕が、正にそうだった。

 

 この世でただ一人、君の無実を信じていたレディエラ。
 彼女は僕にとっても、妹のようであり、そして掛け替えのない友だった。
 その彼女に僕は形無き刃を振り上げ、そして……罪も無い、君とレディエラの子を喪わせる引き金となった。

 

 自分と僕が、君の事を信じられないと言うのなら、もう誰も君の事を救えないと彼女は泣いて訴えた。
 レディエラは、ひたすらに君の無実を信じていた。
 いや―――『その目で視て』知っていたのだ。
 君と再び言葉を交わした今ならば、彼女の言葉を迷い無く信じることが出来るのに―――
 愚かにも君を疑った僕は、自分の手で未来を閉ざしてしまったんだ。

 

 後悔する事でしか、人は過去の過ちを拭い去る事は出来ないのかもしれない。
 だがこれ以上後悔を深めたくはないから、敢えて恥を忍んで君に尋ねる。

 

 シリウス―――我が友。
 僕の犯した過ちを知っても……君は、僕を友と呼んでくれるか?

 

 どんな言葉を連ねても亡くした子供を取り戻す事は出来ないけれど、僕は君とレディエラに心から詫びたい。
 ジェームズ達を亡くし、無実の罪で君がアズカバンに囚われていたこの十数年、
 かつての思い出を分かち合う友としてただ一人の支えとなれた筈なのに、
 僕は自分の罪の意識に耐え兼ねて、レディエラに背を向け続けていた。

 一人で君の帰りを待ち続ける彼女の事が気掛かりで、何度も何度も訪ねようと思った。
 だが、レディエラの顔をまっすぐに見る勇気が出なくて―――遂に十三年もの月日が流れてしまった。

 

 だけど……ジェームズとリリーの忘れ形見であるハリーの成長をこの目で見て、僕は、ようやくレディエラと向かい合う決心がついた。
 君さえ許してくれるのなら、僕は今も変わらない君の友として、再び彼女を訪ねたいと思っている。

 勝手な願いだとは判っている―――良い返事を待っているよ。

 

                                                               リーマス・J・ルーピン』

 

 

南方のとある小さな村の廃屋で、親友から届いた手紙に落としていたシリウスの視線が静かに上がる。
慣れ親しんだイギリスとは趣を異にする明るい日差しに目を細め、シリウスは思いを馳せるように瞼を落とした。

 

喪われた我が子のことは、ダンブルドアとレディエラの口から聞かされて知っていた。
彼女達からは、度重なる精神的なショックで流産したのだと聞いている。
親友の死、婚約者であった自分がアズカバンに囚われた事実―――
実際、レディエラが一夜に受けた衝撃は想像を遥かに超えるものだったに違いない。

だが運命のあの日―――リーマスもまた、消えない傷を心に負っていたのだ。

 

余りにもひたむきに、友を信じていたリーマス。
彼は人狼と言う苦難を幼少から負っていたせいか、自分の感情を制御する事に非常に長けていた。
人狼であると言う事実を知ってなお友情を揺るがせなかった自分達の事を、彼は血を分けた親兄弟以上に大切にしていた。
その反面、彼は裏切りには非常に敏感で、それ故にピーター・ペティグリューは最後まで彼の真の友とは成り得なかったのである。

 

リーマスは自分と言い争った事で、レディエラを流産させてしまったと言う深い罪の意識に囚われていた。
確かに、それは事実の一端ではあるのだろう。だがそれが全てではなかった筈だ。
それならば、必ず守ると誓いながら一時の怒りに駆られて彼女の傍を離れ、結果的に十三年もの間孤独に晒した自分も同罪である。
―――どうして、彼だけを責める事が出来るだろう?

 

『喪った子はもう戻らないけど、もしも新しい命を授かったなら、亡くした子の分まで二人分愛せばいい。
 腕に抱く事は出来なかったけれど……私も貴方も、亡くしたあの子の事を決して忘れはしないから―――そうでしょう?』

 

レディエラの言葉が鮮やかに脳裏に蘇った。
小さな机に向かい、ペンを手に取る。シリウスの胸元で、しゃらりと銀細工のペンダントが揺れた。

 

 

 

……リーマスは十数年ぶりに、エルシーズ家の門を叩いた。
ホグワーツ在学中と、卒業してからも数年間は時折訪れる機会もあった。
だがこの十数年間は訪ねたくともその勇気が出ず、幾度と無くこの門前に立っては引き返すと言う事を繰り返した。

魔法の掛けられた呼び鈴に触れると、以前と全く変わらないまろやかな音色が響く。
口から心臓が飛び出しそうな僅かな時間の後、懐かしい笑顔が彼を出迎えた。

 

「リーマス!」

玄関の扉を開け、門の前に立つ親友の姿を瞳に映したレディエラは、彼の記憶よりも長く伸びた金茶色の髪を翻して駆け寄ってきた。
門扉を開ける手ももどかしく、彼の両の手を取り押し抱く。

「会いたかったわ、リーマス。お久し振りね」
「ああ―――本当に、久し振りだ」

屈託の無い笑顔に、ちくりと胸を刺す痛みを覚える。
だが目を逸らす事はもう許されないのだ。再び友として―――手を取り合う為に。

「レディエラ、僕はシリウスに会ったよ。そして―――全てを知った」
「全てを知って……貴方は、再びこの家を友として訪れてくれたのでしょう?
 昔言った筈ね。貴方が再び彼の事を真の友と呼べる日が来たなら、訪ねて来てと」

レディエラは昔と変わらない笑みを浮かべてリーマスに手を差し伸べた。

「お茶の用意が出来ているのよ。中に入って、ゆっくり話しましょう」

 

リーマスは居間とは別の、南に窓の開けた陽当たりの良い部屋へと通された。
そこには既に一揃いのお茶の用意がされており、手製の甘い菓子の香りに満ちている。
昔から甘い物が好きだった彼の為に、レディエラが用意してくれていたのだろう。

何故前もって用意されていたかなどと問うのは、意味の無い事だった。
レディエラは時折、夢と言う形を借りて未来を視る。
以前にはどちらかと言えば凶兆を視る事が多かったが、年月を経て、その力も少しずつ変化していったのだろうか。

「貴方は甘い物が好きだったでしょう。ジェームズやシリウスが、甘い匂いだけで気分が悪くなるといつも言ってた」

懐かしそうに笑いながら、レディエラが切り分けたアップルパイを一切れリーマスの前に置いた。

「僕は付き合ってくれと言った事は一度も無いよ。必要があるから、僕はわざわざハニーデュークスで甘い物を買い求めていたんだから。
 ホグズミードに行く度に、物見遊山でのこのこついて来るのが悪い」

 

リーマスの甘い物好きは生来の嗜好の問題だけではなく、人狼という避けがたい身の上にも関わりがある。
月が満ちる夜、人狼として一夜を過ごす彼は、人の姿で居る何倍もの体力を消耗するのだ。
肉体そのものがまるきり違う形態に変化する事と、
ともすれば本物の獣以上に獰猛になる自身を押さえ込もうとしている、心身の抵抗から来る消耗なのだと言う。
それ故に自ら魔法の力でアニメーガスとなったジェームズやシリウスは、彼程の消耗は見せない。せいぜい少し疲れたという程度だ。
獣へと姿を変えても自らの意識は保たれており、自制に精神力を裂く必要がないからだった。

喪われた体力を効率よく回復させるには、眠る事と甘い物を摂取する事が一番手っ取り早い。
リーマスは必要に迫られた事とは言え、嗜好と肥満しない恵まれた体質のお陰で、
何とか今まで胸を悪くする事も、学生時代からの体型を崩す事も無くやってこれたのである。

 

「それでいつもご機嫌でホグズミードに出掛けて行く割りには、不機嫌な仏頂面になって戻って来てたのよね。
 ジェームズはリリーの所に、シリウスは私の所に来て、よくぼやいてたわ。もう二度と行かないって。でも懲りずにまたついて行くのよ」

昔話に目を細めたリーマスが、だが、不意に表情を改める。

「―――シリウスと話をしたよ。あまり時間は無かったけれどね……でも、それで十分だった」

静かな眼差しで黙って耳を傾けているレディエラに、リーマスは言葉を続けた。

「済まない―――レディエラ。一瞬でも彼が裏切ったと信じた僕が……愚かだったんだ」

 

膝の上に置かれた拳が、固く握り締められる。
握った掌から、血が滲みそうな程に。

「君は十三年前のあの日にも、裏切り者はピーター・ペティグリューだとはっきり告げてくれたのに。
 シリウスに裏切られたと思い込み、目の曇ってしまった僕には……君の真実を告げる声すら届かなかった」

レディエラは何も言わない。ただ、伏せがちの瞳で自分を変わらず見詰める視線は感じていた。

「どうしてあの時……たった一言でいい、『彼は無実だ』と言う君の叫びを聞き入れる事が出来なかったのか―――
 君と、僕と、そしてダンブルドア先生が証言すれば、シリウスをあんな冷たい牢獄に一人追い遣らずに済んだかもしれないのに」

 

パタッ……と、リーマスの膝の上に涙が落ちる。
シリウスが無為に喪った十数年を取り戻す事は出来ない。
涙などで償える咎ではないが、それでも呵責の念は彼に涙を流させた。

リーマスの手がローブの内側を探り、一通の手紙を差し出す。
レディエラはその手紙を受け取ると、小さく折畳まれたそれを、手の中で広げた。

「この十数年、ずっと君の事が気掛かりだった。
 ジェームズとリリーを喪い、シリウスを喪い、そして唯一の慰めになる筈だった子供まで―――僕が喪わせて」
「リーマス……」

 

その日初めて、レディエラの瞳が傷ましい色を映した。

「ずっとずっと気掛かりで……何度も訪ねようとした。でも、どうしても君に合わす顔がなくて……出来なかったんだ。
 どうしておめおめと君の前に姿を見せる事が出来る?
 僕の心はまだ完全にシリウスを信じていなくて、しかもその不信が、君の子の命を奪ったのに」

リーマスの手が、自らの顔を覆う。
後悔と咎の意識が止め処も無く涙を溢れさせ、零れ落とさせた。

「……だけどこの目で、ジェームズとリリーの忘れ形見の成長を見て……君に会わなければならないと思った。
 ハリーの成長と、シリウスの寄越してくれたその手紙が無ければ―――僕は未だに、君に顔見せ出来なかっただろう」

 

レディエラは手の中の手紙に目を落とした。
そこに見覚えのある字で書かれていたのは、短かな、だが確かな想いの込められた一言―――

 

―――昔も今も、そしてこれからも。俺達は真の友だ―――

 

「……あの日、君の言葉を信じられなかった僕を赦してくれとは言わない。
 だけど僕は、君もシリウスも―――今も友だと思っている。ただ、その事を伝えたかった」

リーマスの肩に、そっと温かな手が触れる。
顔をあげた彼は、そこに母を思わせるレディエラの眼差しを見た。

「リーマス、十三年前にも言ったでしょう?昔も今もそしてこれからも、貴方は私の親友だと。
 亡くしたあの子の事を忘れろとは言わない。それはきっと、貴方にとって最も辛い事だから」

 

起きてしまった事柄を、初めから無かった事に出来るのならばそれでいいだろう。
だがそう出来ない以上、過去に犯した過ちはいつまでも刺のように心に傷を残す。
そしてその傷を痛む人ほど、忘れる事は出来ない―――罪の意識故に、忘却を強いられる事が何より厳しい罰になるのだ。

 

「私やシリウスや貴方の中で、あの子は生きる。産んであげる事は出来なかったけれど……
 この十数年、ほんの数ヶ月でもあの子が私の中に生きていたと言う事実は、確かに私の慰めだった」
「レディエラ……」

リーマスは胸を塞がれるような思いに、それ以上声を出す事が出来なかった。

何故彼女は責めないのだろう。
今も、そして子を喪った直後でさえ彼女は一人で泣き、ただの一言も自分を責めなかった。
いっそ恨みも怒りも全てをぶつけてくれたなら、自分はその罵倒を友を信じる事の出来なかった罰と受け止め、生きる事が出来るのに。

だが次にレディエラが口にした事に、リーマスは涙に濡れた顔を上げた。

 

「それにね、あの子はまた生まれてくるの。だからもう貴方が過去の咎に縛られて、涙を流す事は無いのよ」
「また……生まれてくる?」

呆然と見上げた視線の先で、レディエラがはにかんだような笑みを浮かべる。
突然それがどう言う意味なのかを理解して、思わず言葉が口をついた。

「レディエラ……君、シリウスの子を……?」
「まさか。そんな余裕が無かった事は、貴方たちの方がよく判っているでしょう」

 

レディエラはおかしそうに笑い声すら零して、自分のハンカチでリーマスの頬に残る涙の跡を綺麗に拭った。
確かにあの生きるか死ぬかの状況で、シリウスがレディエラの元に来る事など不可能だったろう。逃げ延びるだけで精一杯だった筈だ。

「でも、それじゃあ―――」
「ええ、今はまだ。でもね、私はそう遠くない将来、再びあの人の子を授かる。今度こそ……産んで、守ってあげられるの」

リーマスの瞳に力が満ちる。

「『視た』のか?未来を―――」

レディエラが小さく頷いた。

「シリウスの無実を知ると言う役目を果たした後は、もう『視る』事は無いと思っていたの。
 でも……つい数日前よ。彼と、私と―――そして小さな子供が、手を繋いで笑い合う夢を見た」

 

かつて父や母の死を『視た』時も、彼らは笑っていた。
その意味ではこの夢も凶兆とも受け取れるのだが、レディエラは漠然とではあるが、その夢は今までのものとは決定的に違うと感じたのだ。

授かった力が真の役目を果たし終わった今、夢はただ、真っ直ぐな未来を自分に視せたのではないかと―――

 

「そして今朝方、貴方がこの家を訪ねてくれる夢を視たの。だから私、朝からパイやクッキーを焼いて待っていたのよ。そして貴方は来てくれた。
 貴方がここを訪れたのは、凶事でもなんでもないでしょう?
 きっと、力の意味が変わったのよ。私がずっと信じていた―――私自身が『幸せになる』為の力へと。
 私は感じたの。夢で『視た』あの子は、過去に亡くしたあの子自身だって。
 再び子を授かる時が来たなら、二人分愛そうと思っていた。でも、それ以上の奇蹟が起こるのよ」

リーマスの瞳から、新たな涙が零れ落ちた。
しかしそれは後悔の涙ではなく、自分を責める涙でもなく、ただ嬉しかったのだ。
胸から湧き上がる希望に―――溢れた涙だった。

「本当に……本当に、そんな日が来るのなら―――その時こそ、僕の咎は真に赦される」
「来るわ。私は、私の『視た』未来を信じる。信じる事が力になるから」

微笑んだレディエラの手が、優しくリーマスの肩を抱く。
まるで全ての命の源になった海に抱かれているようだと、ふとリーマスの脳裏にそんな考えが過ぎった。


 

「もう大丈夫ね。じゃあ、いつも皆で集まっていた居間の方に行きましょうか」
「居間?あ……そう言えば」

十数年ぶりに見栄も外聞も無く泣き、ようやく胸のつかえが下りたような面持ちのリーマスを、レディエラが手招きした。
そう言えばこの家を訪れた時にいつも通されたのは、家で一番広い居間だった。
ここは家人がくつろぐ部屋で、記憶違いでなければ、亡くなった彼女の父のお気に入りだった部屋の筈である。

「実は、居間には先客があってね。貴方と話す間、ちょっと待って貰っていたのよ」
「それなら、僕は帰るよ。先に来られたお客様に迷惑だったろう。もう随分待たせてしまった筈だ」

立ち上がり、ドアに手を掛けたリーマスを、『待って』とレディエラが引き止めた。

「貴方も、特に急ぐ用事はないのでしょう?今日来てるお客様達には、泊まって貰う事になったの。
 どうせなら今夜一晩、貴方も泊まっていくといいわ。どうせ今は私の一人住まいで、部屋は余っているのだもの」
「しかし……先客と言う人達に悪いだろう?後から来た僕まで居座ったら」
「あら、そんな事ないわよ」

ちらり、とレディエラが悪戯っぽい表情を見せる。
学生時代に自分達が浮かべては、リリーや彼女自身に窘められていた表情に似ていた。

「この十数年で、私も随分と人付き合いが悪くなったの。
 『銀の匙』にやって来る依頼人は別にして、この家を客人として訪れる人は誰も居なかった―――貴方以外はね」

と言う事は、門扉を叩かないまでも何度も訪ねていたのは気付かれていたのだ。
もっとも特に姿を隠そうとはしていなかったので、勘の良い者なら気配で察しただろうが。

「今日貴方が訪ねて来てくれたのも滅多にない素晴らしい事なのに、貴方がここに来る少し前、私にも見通せなかったお客様が訪ねて来た。
 もっとも、ここじゃなくて『銀の匙』の方にだけど。彼らは貴方が訪ねて来ると言ったら、大喜びしていたわよ」
「彼ら……?」

 

訝しげに、リーマスが頤(おとがい)に手を当てる。
レディエラを訪ねる由来があり、リーマスの来訪を喜んでくれた『誰か』。しかも、それは一人ではないと言う。
真剣な面持ちで眉間に皺を刻んだ彼を見て、レディエラが苦笑した。

「判らなかったと言ったら、あの子達は拗ねて口を利いてくれないかもしれないわよ?
 『お別れしてから何ヶ月も経っていないのに、もう僕達の事を忘れたの!』……ってね」

意外に巧みなその口真似に、リーマスは確かに覚えがあった。
そんなに長い付き合いがあった訳ではない。
だが、友の面影を映して成長した彼とその親友を、リーマスとて子を見る思いで見守ったのだ。
ホグワーツを離れ、教職を解かれたからと言って、容易に忘れられるものではない。

「まさか……ハリー?」
「ロンにハーマイオニーも一緒よ。皆、貴方を待ってる。
 ちゃんと時間をかけてお別れを言えなかったのでしょう?色んな事を、まだまだ話し足りなかったみたいだわ。
 今夜は多分、寝かせて貰えないわよ」
「今日は新月さ。一晩中だって―――付き合えるよ」

 

居間に姿を見せたリーマスは、わっと言う歓声と共にかつての教え子たちに飛びつかれて、よろめく羽目になった。

その夜は一応寝室の用意はされたものの、ハリー達もリーマスも、一向に寝む気配は見られなかった。
学生時代のハリーの両親やリーマス、シリウス達の逸話などをせがまれるままに語り聞かせる内に、結局全員が徹夜する事になる。
久し振りに学生時代の笑顔を取り戻したリーマスの傍らには、穏やかに微笑むレディエラの姿があった。

                                                                   【FIN】


あとがき

と言う訳で、ウチのシリウス夢ではかなり重い枷を課したリーマスに対する、救済に相当するお話でした。
まず自分の書いた手紙でシリウスに赦しを請い、彼の意思を確かめた後に再びヒロインに赦しを請う。
『End〜』で袂を分かったヒロインとリーマスを、勿論そのままにしておく気はありませんでした。
でも自分の為にヒロインが流産したと言う自責の念に囚われている彼には、
どんな慰めも赦しの言葉も、本当は意味がなかったのかもしれない。だからこその、あのヒロインの言葉でした。

本当に十数年前に流産してしまった子を、ヒロインが再び身篭るのか。それは判りません。
だってそんな事、確かめ様もないですから。科学にも魔法にも、きっと生命の神秘なんて解明しきれないんですよ。
でもそうなのだとヒロインが信じたのなら、それは本当になるのかもしれない。
そう信じることで、リーマスが救われるならそれで良いと思うんです。誰にも救いは必要ですものね。

勿論、ヒロインはこの時点で懐妊していません。
いや、本当はどうしようかな〜と思ったんですが、命がけで逃げなきゃいけない時に、
それじゃあまりにもシリウスが節操無しと言うか、手が早過ぎるかなと…(笑)
しかしシリウスが彼女の元に戻ってくれば、彼女の視た夢は現実になるでしょう。
一日も早く、彼らに人並みの幸福が訪れる事を願ってやみません。
『不死鳥の騎士団』の例のシーンは、ウチでは何とか回避したいと思ってますので…(^_^;)

                                                                                 麻生 司

 

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