#11 〜 #15
#11 地球の艦(ふね)が来た! |
突然のカルラ隊の撤退により、辛くも危機を脱したエイジ達。しかし安堵する間も無く、慌てたアンナがエリザベスを呼びに 来る。通信室に、アメリカ軍へのコールが入ったのだ。だが妨害電波が解けた事で、グラドスの母艦が地球へと進軍を開 始した事にエイジが気付く。地球の艦隊と通信が取れるかもしれないと活気付くアーサー達とは対照的に、その表情はす ぐれない。その頃火星上空のゲイルの艦隊は、火星に向かう地球の艦隊をメインレーダーに捉えていた。 アメリカ軍の定期輸送船と通信が繋がり、大喜びする子供たち。エリザベスは隊長のダニー少佐にこれまでの経緯を説 明するが、米ソの相互攻撃による全滅も異星人の介入も信じては貰えない。攻撃に備えろというの警告も重く受け止め れず、危機感を覚えたエイジはレイズナーで宇宙に出る。デビッドとロアンも彼の後を追った。 ダニー少佐がシャトルで火星へと降下を始めた直後、偵察に出たカルラ隊と輸送船が接触。駆け付けたレイズナー、ベ イブル、バルディも加わり応戦を開始する。輸送船はカルラ隊のSPTを一機撃墜、一機破損させ撤退に追い込んだが、 その砲火は援軍に駆け付けたレイズナーにも向けられた。『止めろ!そいつは味方だ!!』必死に叫ぶデビッドとロアン。止 む無くエイジ達は輸送船を離れ、火星へと帰還する。そしてシャトルから廃墟となった自軍の基地を目の当たりにしたダ ニー少佐の報告に、ようやく輸送船の乗組員たちもエリザベス達の警告した異星人の干渉を信じ始めるのだった。 エイジと対面したダニー少佐は、彼を捕虜にすると宣言。子供たちに拘束しろと命じるが、誰一人従おうとしない。まだ幼い アンナまでもが彼を守るように自分の前に立ち塞がる姿を見て、ダニーは驚愕する。 すぐにも基地を離れる為に全員シャトルへ乗れと促すダニーを、エイジが制止。頭上に待機するグラドス軍の脅威を訴え るが聞く耳を持たない。だが、デビッドはエイジと共に火星に残る事を選んだ。ロアンも、シモーヌも、アンナも残ると宣言。 アーサーだけは最後までダニーへ同行する事を仲間に訴えたが、『遠慮は要らない』といシモーヌの言葉に泣き崩れる。 『俺だって、エイジを信用してるよ!だけど、だけど!!』―――それは、地球への帰還を切望する彼の正直な叫びだった。 子供たちを残し、ダニー一人を乗せて飛び立つシャトル。 生と死を分ける大きな選択。皆がエイジを仲間だと考え、仲間として彼を信じた瞬間だった。 『駄目だ、エイジは俺たちの仲間なんだ』 |
#12 さよならの赤い星 |
観測基地に響くアーサーの嘆き。きっと地球には帰れると励ますエイジに、頭上に敵さえ居なければ、ダニー少佐が殺人 犯でも一緒に地球に帰りたいと叫ぶアーサー。だから僅かなパーセンテージであっても、生き残る確立の高い方を選んだ のだと口にしたデビッドに、『それでも僕は嬉しい』とエイジは微かな笑みを浮かべる。それは生きるも死ぬも一緒だと言っ ているかのような微笑だった。観測基地のレーダーが、ダニー少佐のシャトルに近付く敵の機影を捉える。助けに行こうと するデビッドをエイジは止めるが、同じ地球人を見捨てる事は出来ないと彼は言い放つ。同じく立ち上がったロアンを見遣 ると、エイジも共に出撃していった。 ダニーの帰還後、輸送船はグラドス軍のSPTによる攻撃を受けていた。先の攻撃とはスピードも火力も全く桁の違う猛攻 に、成す術も無く破壊されていく輸送船。砲台が破壊され、ミサイルも底を突き、艦橋さえ吹き飛ばされて、レイズナー達が 駆け付けた時には既に遅く、爆発する輸送船から脱出出来たのはダニー一人だけだった。 脱出したシャトルで再び無人観測基地に降りて来たダニーは、自分の認識が甘かった事を認め、エリザベスとエイジが 作った報告書のディスクに目を通す。改めてエイジと向かい合うダニー。エイジはかつて全てを武力で解決しようとする、 好戦的なダニーを責めた。『では、グラドス人は好戦的ではないのか?』ハッと目を瞠るエイジ。 『好戦的な地球人の宇宙進出に不安を感じて地球を攻撃するのは、武力で解決するのとどう違う? 仮に地球人が好戦的であるとしても、その六十億を越す民を何の権利があってグラドス人が抹殺出来るんだ? グラドス人の、何処にそんな権利がある!?』 地球の総力を持ってグラドスの侵攻を阻むと言うダニーに、エリザベスはそういった考え方がグラドスに地球侵攻の口実を 与えるのだと説くが、それならば平和裏に解決出来る方法を教えてくれと切り返される。 何故、敵と接触して話し合いの場を持とうとしなかったのかと言うダニーの言葉に、エリザベスは敵の無差別な攻撃から 逃げるのに精一杯だったと答えた。ダニーは重ねて問う。 『それが真実ならば、改めて君に聞く。一体地球人の何処が好戦的なのか。火星にミサイルを持ち込んだ事か? 人類の歴史が戦いの歴史であったからか?ならばグラドス人の無差別攻撃はどうなんだ!? 私は軍人だ。君の言うとおり、最終的には軍事力を行使する。 だがそれは政治力の変形としてであって、自分に都合のいい未来予測の為ではない!!』 エイジには、応える事が出来なかった。 無人観測基地から、アメリカ宇宙軍と交信を試みるダニー少佐。だが出力が小さ過ぎて繋がらない。彼はエイジとシャトル を徴用し、更には戦闘要員としてデビッドとロアンにも同行を強要する。上空には敵が居るとエイジは諭すが、ダニーは銃 を突きつけると、承知の上だと言い切った。 エイジが行くのなら自分達も一緒に行くと申し出るエリザベス。勿論アーサー、シモーヌ、アンナも共に。危険は承知の上 だろうなと確かめるダニーに、『此処に居ても一緒よ』とシモーヌは呟いた。 『行きましょう、少佐。貴方に脅かされて行くのではなく、皆が行くのなら僕も』 自分たちが行くのはエイジが行くからだと言うエリザベスの言葉に、一瞬目を伏せ、エイジは決断した。 アメリカ宇宙軍との合流を目指して、火星脱出のカウントダウンに入るシャトル。実に燃料の95%を消費しての強行軍で あり、合流に失敗したら引き返すことはおろか、太陽系から失速する事にもなりかねない。やり直しの出来無い状況で、 カルラを引き連れたゲイル隊が火星地表を目指して降下を開始した。 火星を脱出させまいと雨のようにレーザードガンが降り注ぐ中、SPT五機の間を縫うように上昇を続けるシャトル。 ゲイルのグライム・カイザルは紙一重でシャトルとの接触をかわすと、全機帰投して母艦での追撃を命じた。 奇跡は再びエイジに味方する。だがこのまま無事に地球に戻れるとは、誰一人思っては居なかった。 『私達が行くのはエイジが行くからです。 私たちをこれまで生き延びさせてくれた、エイジが行くからです』 |
#13 宇宙(そら)にむなしく |
火星を奪取し、無事地球へ向かう軌道へとシャトルを乗せたエイジ達。アメリカ宇宙軍との接触を待つ間、ダニー少佐はグ ラドスの戦力を見極める為にエイジを尋問するが、彼を敵だと言い、スパイ扱いするダニーの態度にアンナ達は反発を強 める。ようやく接近中のアメリカの艦隊と通信が繋がるが、グラドス侵攻と米ソの火星基地全滅の真実を全く信じて貰えな い。ダニーの警告を虚言と聞き流し、遠ざかっていくアメリカ艦隊。辛うじて傍受した通信から漏れ聴こえてきたのは、見知 らぬ機動兵器の攻撃を受けた友軍の断末魔の悲鳴だった。 一縷の望みを託し、救援信号を送り続けるダニー少佐。だがその要請に応じたのはソ連軍の艦隊だった。エイジを捕虜と して引き渡す事に子供たちは反発するが、地球へ危機を知らせる事が出来るのなら何処の捕虜になってもいいと、彼は 笑う。デビッドに自分のヘルメットを投げ渡すと、アンナ達とは別室に引き立てられていった。 アンナ達が収容された艦隊にゲイル隊が迫る。ダニーは一刻も早くこの場を離脱し、エイジを解放する事を促すが、艦長 は自軍の装備を過信して耳を貸そうとはしない。かつての自分やアメリカ軍艦隊と同じ過ちを繰り返そうとしているソ連軍 に絶望した彼は、見張りの兵士を振り切るとエイジを救出に向かった。同じ地球人同士でも話が通じないのに、グラドスと 地球という二つの星を越えて友情を結んだ少年たちに全てを託す為に。 押し込められた一室で、不安な時間を過ごすアンナ達。艦隊がグラドス軍の攻撃を受け、不吉な振動が足元から伝わって 来る。堪らずにエイジを探しに出ようとしたデビッドを呼び止め、行くなら皆一緒だとシモーヌが立ち上がる。誰の目にも迷 いは無かった。再び合流したアンナ達とエイジをハッチからシャトルへと脱出させるダニー。彼は子供たちを脱出させると、 爆発するソ連艦と命運を共にした。 『笑い話にもならん。同じ地球人同士の方が、話が通じんのだからな』 |
#14 異星人に囚われて |
追撃してくるゲイル隊。爆発するソ連艦から脱出する際にエネルギーを消費してしまったベイブルとバルディは動かせな い。エイジは後の事をデビッド達に託し、一人レイズナーで出撃していく。シャトルに残されたエネルギーが僅かである事を 見抜いたゲイルは、カルラ達にシャトルを包囲させた上で降伏を勧告する。デビッドは反発するが、仲間達に手を出さない 事を条件に、エイジは降伏勧告を受け容れたのだった。今降伏しなければ、皆助からない。本当はデビッドも、エイジの苦 渋の選択を判っていた。 ゲイルの母艦に収容されるエイジ達。カルラは地球人達と反逆者を生かしておく必要は無いと主張したが、彼らの姿を艦 橋からモニターで見ていたゲイルは、戦う意思を無くした者の命を奪う必要は無いと、処刑を諌める。彼の目には地球人 の子供達も反逆者であるエイジも、同じ人間に映っていた。 アンナ達が一室に軟禁されていた頃、エイジはゲイルの私室で彼と対面していた。父は息子の反逆の責任を問われて投 獄、母と姉は軟禁状態になっていると聞かされても冷静なエイジ。全て覚悟の上だったと答える彼に、ゲイルは何故そこ まで地球を庇うのかと問う。いくらその身に半分地球の血が流れていようとも、お前はグラドスで生まれ育ったグラドス人 だろうと。『地球は僕にとって、グラドスと同じ故郷です。僕だけじゃなく、何億という人が生きている』エイジは訴える。火星 から命運を共にしたアンナ達も、地球という星に誇りを持ちながら生きる、同じ人間なのだと。 『蒼くて美しい地球を、グラドス同様に愛しいるんです』 例え見た事は無くても、幼い頃から繰り返し父から聞かされたその姿は、現実の姿として心に灼きついていた。このまま グラドスの策謀で世界大戦が起きれば、地球の自然や環境は破壊されてしまう。だがそうしなければ今の地球のシステ ムを変える事は出来ないのだと、グラドスの中央コンピューターは長い時間をかけて結論を出したのだ。人の血の通わな いコンピューターが出した結論を、間違っていると否定するエイジ。二人の話し合いは決裂した。 地球人の捕虜と反逆者のエイジを生かしておく事に納得の行かないカルラは、ゲイルに無断で上層部に捕虜の処遇につ いての指示を仰ぐ。処刑を命じられたゲイルは地球人の捕虜は女子供の非戦闘員ばかりだと躊躇するが、婚約者であ るエイジの姉を引き合いに出されて、やむなく頷いた。ゲイルにエイジ追討の命が下ったのは、彼のグラドス軍への忠誠 を試す踏み絵でもあったのだ。 『君は弟を喪っても、私を許してくれるか?』―――ゲイルがエイジ処刑の命を下せないうちに、カルラが捕虜を気密室へ と移動させる。だが身体一つで宇宙へ放り出される事を察した子供たちは抵抗し、カルラを人質に取って脱走をはかった。 エネルギーを補充し直し、離脱するシャトル。 『後悔するぞ、エイジ。俺とお前の間にあった絆は、これで全て切れたと思え』 ゲイルとの和解の道は完全に閉ざされた。 言いようの無い苦悩の表情を浮かべるエイジに、アンナは彼と、先輩と呼ばれるあの男性の切っても切れない絆の深さを 感じずにはいられなかった。 『人生には白旗が必要な時がある。 しかしその白旗は、反撃に備える為の一つの手段に過ぎない』 |
#15 蒼き流星となって |
宇宙に解放されたカルラを救助したゲイル隊は、再びシャトルの追撃を開始する。自ら生きる望みを断ち切ったエイジを 惜しみながらも、ゲイルはジュリアと決別する覚悟をさえ決めて、軍人として彼を討つ事を誓う。人質となり、エイジの逃亡 を許したカルラは自殺を図るが、艦で起きた事は全て自分の責任だと止められる。カルラは自分の罪をも被ったゲイルへ の想いを更に深めるのだった。 シャトルでは、最短の月へ辿り着く前に追撃艦に捕捉されるというコンピューターの結論が出ていた。全ては予測の範囲 であり、それ故に敢えて艦内での戦闘を避け、脱出を許されたのだと悟るエイジ達。今度捕捉されたら交渉の余地は無 い。追撃艦に追い付かれる事は、死を意味していた。 迫り来る死の恐怖に、シャトルのブリッジには張り詰めた空気が漂う。縋るように腕を握り締めて来たアンナや、モニター を覗きこむデビッド達の後姿を見遣ったシモーヌは、突然明るい声で話題を切り出す。地球に帰ったら、熱いシャワーを浴 びて、お気に入りのドレスを着てデートをするのだと。彼女と先にデートする権利を競うデビッドとアーサーの騒ぎを背中に 聞きながら、エイジは窓の外に小さく見える蒼い星―――地球を見詰めていた。 シャトルを捕捉したゲイルは、出撃命令を出す。自分も共にと名乗りを挙げるカルラをブリッジに残し、彼は自ら出撃する。 男の死に様は二つ―――名誉ある死か犬死にか。勇気ある真の男には、名誉ある死を送りたいと呟いて。 迎撃準備をするビッド達に、もしも自分が倒れたら自分に代わって地球の人達に危機を知らせて欲しいとエイジは口にす る。あの美しく蒼い星を永遠に輝かせる為に、知恵を結集してくれと。死を予感させるその言葉に、デビッドもロアンも返事 を返せない。だがその頃、シャトルの緊急通信を傍受してた地球の艦隊が接近しつつあった。 地球の艦隊はシャトルを守るように追撃隊との間に入り、ゲイル隊と戦端を開いた。だが圧倒的な戦力の差に、次々と艦 隊は沈んで行く。そしてモニターを見守るアンナ達の目の前で、艦隊は全滅した。これが本当のグラドスの力―――レイ ズナーのコックピットで戦慄するエイジ。彼は仲間を守る為に出撃する。 『他の者には手を出させない。さらばだ、エイジ!』 『さようなら、ゲイル先輩!』 互いに別れの言葉を口にして、一騎打ちに臨む二人。だがその力の差は歴然だった。追い詰められ、ダメージを受けてい くレイズナー。だがエイジはゲイルのグライム・カイザルを射程に収めても、トリガーを引く事が出来ない。戦況の不利を 告げ、パイロットの脱出を促すレイ。勧告に従わず、踏み止まり続けるエイジ。その時突然レイが沈黙し、コンソールパネ ルがフラッシする。『どうした!?何をする、レイ!!』エイジの意思に反して、レイズナーは暴走を始めた。 レイズナーが蒼く燃える。急加速によるGで意識を喪ったエイジの制御を離れたまま、蒼い流星は一瞬でグライム・カイザ ルを討った。大破したコックピットの中で、瀕死のゲイルは蒼く輝く地球を目に映す。『あれがお前の……地球か』――― 祖国を裏切り、反逆者と呼ばれてもエイジが守ろうとしたその美しい煌きに、ゲイルは手を差し伸べた。最期にジュリアの 名を呟き、瞳を閉じる。意識を取り戻したエイジの目の前で、グライム・カイザルは爆炎に包まれた。 『先輩!ゲイル先輩!! あぁぁああぁぁぁぁっ!!!』 星々の瞬きの中で、アンナ達は初めてエイジの泣く声を聴く。 幼子のように号泣するその声は、強く優しい魂の悲鳴のように、アンナ達の心を揺さぶるのだった。 『何という、清らかで美しい光なんだ…お前が命を賭けて守ろうとする、あれが…地球か……』 |