#1 〜 #5

#1 あかい星にて  
1996年10月3日、国連火星基地に宇宙体験教室(コズミック・カルチャー・クラブ)の第一次メンバーが到着した。
最年長は十七歳のアーサー、最年少は十四歳のアンナ。十六人の少年少女たちは期待と夢に目を輝かせて火星に降り立っ
たが、しかし到着後間も無く国籍不明機(SPT)同士の戦闘の煽りを受け、基地は壊滅状態に陥ってしまう。

アメリカ基地ともソ連基地とも連絡のつかない中で子供達は爆撃に巻き込まれ、僅かの国連基地スタッフと引率のエリザベ
ス、そして五人の生徒だけが辛うじて地下ブロックに逃げ延びた。
やがて三機の不明機が撤収し、追われていた一機の操縦者が生き残ったスタッフと生徒の前に姿を現す。
ヘルメットの下から現れたのは、体験学校の生徒と同年代の少年の素顔。

『グラドスから来た。僕の名はエイジ、地球は狙われている』

―――だがその言葉の意味を、まだ誰も理解する事は出来なかった


『僕の名はエイジ、地球は狙われている!』
#2 彼の名はエイジ
『ブルドリア太陽系のグラドス星から来た』というエイジの言葉は、容易に信じられるものではなかった。アメリカ軍か、ソ連軍
かと誰何する国連スタッフ達。だが取り上げられたヘルメットが敵接近のアラートを発している事に気付いたエイジは、取り
押さえようとする大人たちを振り切って機体に戻って行く。
生き残った地球人を巻き込まない為に敢えて囮になるレイズナー。
新たな追討隊を率いているのは、エイジの良く知るゲイルだった。投降するよう説得されるが、エイジは頑なに首を振り続け
る。パイロットを殺さない為に、レイズナーのライフルの照準は脚部関節稼動部サブバーニアにセットされた。

基地に残された子供達はアメリカとソ連がぶつかったのかと推測するが、何の確証も無い。水と食料は何とか無事だったが、
生命維持装置が致命的な損傷を受け、もって数日という結果が出た。その頃デビッドは親友の死を未だに受け容れきれず、
破壊された扉の前で一人涙を流していた。僅かに生き残った国連スタッフとエリザベスは、子供たちを連れて米軍基地を目
指す事を決める。

一方、互いを良く知るが故に攻め切れないゲイルとエイジ。ゲイルは婚約者であり、エイジの姉であるジュリアの名を出して
説得するも、彼は降伏を受け容れない。しかし国連基地に残る地球人たちの存在に気付き、掃討せよと部下に命じる。その
砲火の前に、自らの機体を盾にして立ち塞がるエイジ。その姿に、ゲイルは彼の身体に半分流れる地球人の血を思い出す。
『撃つな!撃たないでくれ!!』遂に彼はコックピットから出て、生身の身体で両腕を大きく広げて訴えた。自分の身体に地球人
と同じ赤い血が流れている事を見てくれと叫ぶ彼の姿に、ゲイルは部下に撤退を命じたのだった。


『それでも、僕の血の半分は地球人です!』
#3 その瞳を信じて
国連のスタッフ達に取調べを受けるエイジ。かつてアポロX0(エックス・ゼロ)計画に参加し、行方不明となったケン・アスカと
いう日本人を父に持つグラドス星人との混血だと説明するが、やはり信じてもらえない。だが国連スタッフ達は、ケン・アスカ
と言う名に確かに覚があった。

一方、エイジを始末出来なかった事をグレスコ提督に責められるゲイル。ゲイルは子供の頃から良く知るエイジを何とか庇
おうとするが、作戦失敗の責任を取って追討隊の任から外される。彼の後任となったのは、かつてエイジの姉・ジュリアに無
体を働こうとしたゴステロだった。

グラドスの目的が米ソの対立を煽り、第三次世界大戦を引き起こす事だと告げられ狼狽する国連スタッフ達。一刻も早く地球
に危機を報せに行かせてくれと訴えるエイジのヘルメットを取り上げ、基地の一室に軟禁してしまう。
だがこっそり様子を伺いに来たアンナが、エイジの必死の叫びに耳を傾けた。彼女はたった一人で大人たちを説得に向かう。
大人たちはその訴えに耳を貸そうとはしなかったが、エイジのヘルメットが敵接近のアラートを通告。アンナはそのヘルメット
を手にすると彼の元へと駆け出した。

しかしその頃、デビッドが一人行動を起こしていた。格納されていた銃を持ち出し、エイジを襲撃する。親友と多くの人間が死
んだのは、全てお前が来たからだと逆上するデビッド。駆けつけた国連スタッフ達に取り押さえられるが、暴発した銃弾がエ
イジの至近に着弾する。エイジはアンナの手からアラートを発するヘルメットを受け取ると、迎撃の為にレイズナーへと戻って
行った。

攻撃に備えて地下の核施設に逃げ込む国連スタッフと子供達。だがそこも長くは持ちそうに無い事を察し、核施設を自爆させ
る。閃光と爆風に包まれる国連基地。エイジを追って来たゴステロを退ける事には成功したが、子供たちは帰る場所さえ喪っ
てしまった。

『逃げるな!……僕の話を、聞いてくれ!!』
#4 心のこしての脱出
国連スタッフと子供達が米軍基地に向かう間、壊滅した国連基地に残って囮になると申し出るエイジ。他に成す術が無い地
球人達は、レイズナーを残して脱出する。だが一言の礼も挨拶も無く、彼を置き去りにする事になった子供たちは、それぞれ
に苦い想いを噛み締めていた。

残存エネルギーはごく僅か。レイズナーの稼働限界が見えているエイジは、国連基地のサブ動力を起動させ、未だに地球人
達が中に残っているように偽装する。ロベリアとガステンの二人を連れて再び戻って来たゴステロは、無益な破壊の限りを尽
くす。ロベリアは脱出した地球人達の砂上車を追撃する為、飛び立った。

ガステンを人質に取るエイジ。ロベリアと共にゴステロに降伏を促すが、『敵の手に落ちた者などどうにでもしろ』と、一言で
切り捨てた。更に地球人達が脱出した事を見抜かれ、彼らを助けて欲しければ降伏しろと逆に通告される。部下の命を全く
意に介さないゴステロの言い分に愕然とするエイジとガステン。エイジはガステンの機体からエネルギーを強制奪取すると、
彼に突き付けていた銃を投げ捨てる。『何故撃たなかった?地球人なら出来た筈だ』ガステンの問いかけに、エイジは自分
にも半分グラドスの血が流れていると告げ、その場を去った。

エネルギーの補充は出来たが、相手に止めをさせないエイジは次第にゴステロに追い詰められていく。だが彼の窮地を救っ
たのは、先程エイジが見逃したガステンだった。『坊や、早く逃げろ!』―――ガステンは自分を一言で見捨てたゴステロを
見限り、殺さずに見逃してくれたエイジを守る事を選んだのだ。黙って目を伏せ、飛び立つエイジ。その背後で、ガステンの機
体はゴステロの銃撃に崩れ落ちていった。

砂上車の中に、アンナの小さな悲鳴が響いた。断崖の上に姿を現した敵の機影に、皆が息を呑む。
あの若者が殺された―――誰の胸にも、同じ不吉な考えが過ぎった。


『僕の母は貴方と同じグラドス人だ』
#5 まもられても、なお……
現れた敵の機影を目にして、エイジの死を予感し戦慄するアンナ達。二台の砂上車は必死で追撃を逃れるが、囮になった一
台が袋小路に追い詰められる。しかしそこにゴステロを振り切ったレイズナーが駆け付け、地球人達は辛くも無人観測基地
に辿り着いた。その頃ロベリアは、ガステンがエイジに殺されたとゴステロに告げられる。同郷の友を手に掛けたエイジに対し
ロベリアは激しい怒りを抱く。

無人観測基地に逃げ込んだ国連のスタッフ達は、それぞれの考えをもう一度述べ合っていた。エイジの話を信じるか、それと
もやはり全てを虚言と受け止めるか。意見は分かれる。だが、エイジを信じようという意見は確かに高まっていた。
大人たちがそれぞれの意見を交し合っている中、子供たちは非常食を探し出して、人数分の用意をしていた。自分たちと大人
達の名を読み上げながら、非常食のパックを並べていくアーサー。『あの人の分は…?』控えめなアンナの声に、アーサーは
『地球人の心が狭いと思われたら嫌だからな』と、もう一人分追加する。しかし最後の一人分を手にしたのは、今にも何かが
爆発しそうな表情をしたデビッドだった。

レイズナーのコックピットで、レイに『僕達の生存確率は?』と尋ねるエイジ。だがレイは『僕達』という定義を理解出来ず、シン
タックス・エラーを起こす。質問を取り消したエイジの目に、歩み寄ってくるデビッドの姿が映る。『僕の分か…?ありがとう』
差し出された食料に僅かに表情が綻ぶ。だが手渡す直前、デビッドは全てを地に捨ててしまった。『掛かって来い!』と煽る
が、理解し合えない辛さを面に浮かべ目を逸らすだけのエイジに、デビッドが一方的に殴りかかる。あまりの剣幕に近付く事
すら出来ない子供達。だがアンナだけは『止めて!』と前に進み出る。騒ぎを聞きつけた大人な達に取り押さえられたデビッド
は、『お前なんかにガードして欲しくない!』と叫んでその場から走り去ってしまった。

デビッドが捨てた食料を丁寧に拾うシモーヌ。それをエイジの手に押し付けると『格好つけ過ぎよ』と、一方的に殴られるに任
せていた彼に、あれではデビッドが惨めだと告げた。


砂嵐も去り、再び砂上車で米軍基地を目指す地球人達とエイジ。だが再び現れたゴステロに、国連のスタッフ達は次々と遠
隔射撃で撃ち殺されていく。一人死に、二人倒れていく中、やっとの思いで米軍基地に辿り着けた者たちは、そこにまだ健在
する基地を見て安堵する。だが安堵したのも束の間、飛来した核ミサイルによって子供たちの目の前で基地は焦土と化した
のだった。


『貴方の星では喧嘩をしないの?あれじゃ、デビッドが惨めだわ』



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