#26 〜 #30

#26 時は流れた! 
1999年10月、かつてニューヨークと呼ばれた都市はその名を封じられ、今はグラドスの本拠地と化していた。
とある縫製工場では、大勢の従業員が集まっていた。各々の手にあるのは縫いかけの洋服ではなく、弾圧さ
れ、所持する事も見聞きする事も禁じられている地球の書物やラジオ、テープ。この工場に勤めるのは全員
レジスタンスのメンバーであり、文化矯正隊の目を盗んで地球文化を隠匿するのがその主な目的である。
メンバーの中には、十七歳になったアンナの姿も有った。

レジスタンスの情報を受け、縫製工場に踏み込んだ文化矯正隊の隊長ギウラは、床下に隠されていた本や
テープを発見する。連行されそうになったアンナ達を救出する為に武装したデビッドとレジスタンスの仲間が
駆け付けるが、圧倒的な数の差で包囲されデビッドまで捕らえられてしまう。彼女たちを逃がそうとしたマッ
シュに銃が向けられたその時、一人の物乞いが銃口の前に歩み出る。その姿を目にして驚愕するアンナと
デビッド。ギウラに金をせびるその男の横顔には、確かにエイジの面影があったのだ。思わずデビッドが彼の
名を口にすると、その名を聞きつけたギウラは、金が欲しければアンナを殴れと男に命じる。三年ぶりに目に
する彼の姿にアンナの顔にも喜びが浮かぶが、その頬を男は無表情に殴った。驚き、非難の声を上げるデ
ビッドの顔と腹にも、男の拳が打ち込まれる。命じられるままにギウラの靴まで舐める彼の姿に、憤りと哀しさ
を覚えながらもアンナはそれでも彼をエイジだと信じ、逆にデビッドは人違いだと信じようとした。

グラドス本部に連行されたデビッドとアンナが収監された部屋を、ロアンが訪れた。彼は噂どおり、グラドス軍
の幹部となっており、二人に降伏を勧めに来たのだ。つまらない地球人の誇りなど捨ててグラドス人になれ
ば、生きる道は残されていると。三年前には地球の為に共に戦った彼の裏切りにデビッドは激怒し、アンナは
涙を流す。たった三年で、人はこんなにも変わってしまうのか―――ロアンとエイジの名を呟き、彼女は悲嘆
にくれた。

公開処刑の場に引き出されるアンナ達。マッシュは集まった民衆に、彼女たちを助けてくれと訴えるが、誰も
動こうとはしなかった。大人たちの不甲斐なさに、自ら飛び出すマッシュ。ギウラがマッシュも含めて処刑の
合図を出したその瞬間、ジッと何かを待ち続けていた男が動く。昨日アンナとデビッドを殴ったあの男だった。
銃弾が飛び交う中、彼は次々に手にしたトンファーでグラドスの兵士を打ち倒し、ギウラを人質にする。そこ
に現れたのは、懐かしい蒼いSPT―――レイズナーだった。やはり彼はエイジだったのだ。

エイジに駆け寄り、再会を喜ぶデビッド。エイジはデビッド達がニューヨークでレジスタンス活動をしている事
を知り、つい二日前にやって来たばかりだったのだ。アンナの方へと押しやられたエイジは、彼女としばし見
詰め合う。敵を欺く為とは言え、殴ってしまった事を詫びる彼の胸にアンナは涙を流して飛び込んだ。彼女の
背を、躊躇いがちにエイジの腕がそっと抱く。二人の間に流れた三年という時間は、この瞬間に埋められた
のだった。

『君たちが見たとおり、僕は裏切り者』
#27 華麗なるル・カイン
グレスコの嫡子であるル・カインが、直属の部下である死鬼隊を引き連れて新たにグラドス本星から派遣され
た。彼の暗殺に成功すればグラドス軍に大打撃を与えられると、計画を練るレジスタンス。治安部隊から奪っ
たSPTを使った襲撃作戦に意気が上がるが、ル・カインのSPT戦術能力の高さに警鐘を鳴らし、エイジとデ
ビッドは襲撃に反対する。二人を欠いたまま作戦は決行されたが、レジスタンスの仕留めたル・カインは替え
玉だった。金色のSPTを駆り、レジスタンスを殲滅するル・カイン。地球の文化を捨てグラドスを信じろと説く彼
に、エイジ、デビッド、アンナは姿を晒して宣戦布告する。避けては通れぬ宿敵である事を、互いに認め合っ
た瞬間だった。

地球文化を抹消させる為、ル・カインはグレスコが封鎖するに留めていたニューヨーク図書館を襲撃する。
書庫に火を放ち、建物まで全て灰にしてしまった。地球文化に一定の理解を示していたグレスコは息子の所
業に苦言を呈するが、グラドスの文化こそが優れていると信じるル・カインは聞く耳を持たなかった。グラドス
に協力的である事から、ロアンがル・カインの前に召し出される。彼はメトロポリタン美術館の所蔵品へ火を
放つ火付け役になれと命じられた。

ロアンの放った火で、燃え上がる美術品の山。だがそこに、美術館焼き討ちの報せを受けたアンナが駆け付
けた。自分自身も燃え盛る炎の中から絵を取り出すと、彼女は集まった民衆に『どうか地球の誇りを守ってく
ださい』と呼びかけた。デビッド達も加勢に入った事で、心を動かされた民衆が次々に美術館から絵画や美術
品を持ち出し始める。民衆を扇動したアンナを抹殺する為に死鬼隊が差し向けられるが、間一髪レイズナー
が駆け付け彼女とデビッドを逃がした。

『ル・カイン、誇りの為だけに戦う事も出来るのが、地球人だという事をよく憶えておけ!』

かつてその誇りを傷付けてしまったが為に、エイジは自ら地球の人々の銃火を受けた。
今はその誇りが地球人の強さだと言う事を知っている。『この星は刺激に満ちている…』ル・カインは不敵な笑
みを浮かべ、飛び去るレイズナーを見据えていた。

『地球人の誇りを守る為に、少しの間だけ皆さんの勇気を私に貸してください!』
#28 クスコの聖女
文化矯正隊に追われたアンナは、デビッドとマッシュが用意していた新しい隠れ家に移る。其処に届けられて
いた地下組織の新聞に『クスコの聖女隊』の名を見出し、アンナの表情が明るくなった。南米クスコから噂が
広まった事からその名で呼ばれる集団は、『グラドスと地球は支配、被支配の関係ではなく、共存しければな
らない』と訴えた一人の女性を中心に形成されていた。武器を持たずにグレスコ批判を展開するその姿勢か
ら、地球人のみならずグラドス軍兵士の中にも彼女の信奉者が存在する。彼女の本当の名はアンナも知ら
なかったが、地下新聞は聖女隊がニューヨークへ向けて移動している事を報せていた。新聞に載せられた聖
女の写真を見て、驚きの表情を浮かべるエイジ。彼は聖女の姿を直接見る為に隠れ家を飛び出して行った。

ニューヨークに現れた聖女隊を文化矯正隊が取り囲む。だがクスコの聖女を目の当たりにすると、誰も引鉄
を引く事が出来なかった。彼女の歩みを止められないまま、少しずつ包囲網が崩れてゆく。矯正隊の隊長す
ら退けたその威厳に、民衆は沸き立ち、喝采を浴びせた。銃を用いず、言葉と威厳だけで文化矯正隊を沈黙
させたクスコの聖女の正体。彼女の名はアルバトロ・ミル・ジュリア・アスカ―――エイジの姉だったのだ。彼
女の胸には、不思議な意匠の施されたペンダントが揺れていた。


行進を続ける聖女隊の前に、死鬼隊を引き連れたル・カインが現れる。彼女に向けSPTの銃口を向けるが、
その時死鬼隊の一人が、どうせ殺すのなら自分に下げ渡してくれと名乗りを挙げる。SPTを下り、その手で
ジュリアの衣服を剥ぎ、辱める鬼。しかし姉の危機にエイジが飛び出した。鬼に組み付かれ、トンファーで仮
面を弾き飛ばすエイジ。仮面の下から現れた顔は、フォロンの緊急起動で火星で倒れた筈のゴステロのも
のだった。


エイジは聖女隊と自分の今後の命運を賭け、ル・カインにゴステロとの一騎打ちを申し出た。火気を使えない
事と周囲に避難している民衆の為に苦戦するが、辛くもゴステロのSPTを倒す事に成功する。見苦しく悪足掻
きをするゴステロを一喝すると、ル・カインはエイジとジュリアをその場に残し撤退したのだった。


『私にはやらなくてはならない事があるの。人々がそれを望んでいる限り』
#29 再会・謎の招待状
世界各地に散ってしまった仲間達の元に、再会を提案する手紙が届く。日時は三年前、グレスコ艦に挑んで
敗れ去った10月18日。奇しくもそれはレジスタンスの拠点にグラドス軍の手入れが入る当日だった。

グラドス軍のヨーロッパ支部に勤務するアーサーの元にも招待状は届く。彼はアメリカに行かせくれと言い出
せないまま無為に日々を送っていたが、約束の数日前になって急遽アメリカ支部への転属命令が出た。渡り
に舟と喜んだアーサーはその途上、同じく招待状を受け取ってアメリカに向かうシモーヌとも再会する。アメリ
カ支部へと到着したアーサーを出迎えたのは、既に幹部となっていたロアン――アーサーの急な転属は、彼
の計らいだったのだ。彼に招待状を見せ、この為に呼んでくれたのかとアーサーは問うが、ロアンはそんなも
のは知らないと怪訝な顔をする。グラドスの本部で不用意な物を持ち歩くなと、ロアンは招待状を取り上げて
しまう。同じ頃、シモーヌがヨーロッパ大陸でレジスタンスに情報を流していた事実が発覚していた。

招待状に記されていた場所で再会を果たしたかつての仲間たち。差出人は判らず仕舞いだったが、出席出来
なかったエリザベスによると安心して集まってもよい、との事だった。遠くに聞こえるレジスタンスの拠点潰し
の音にシモーヌは敏感に反応するが、スパイから情報が漏れていた為、大事無いとのんびり構えるデビッド
達。だがアーサーがロアンに今日の集まりの事を話したと知って顔色が変わる。ロアンは自らがグラドスの忠
実な僕である証を立てる為に、招待状をル・カインの前に差し出していた。

ロアンが裏切っていたという事実に、驚き狼狽するアーサー。彼は治安部隊を引き連れて倉庫を強襲する。
火星から生死を共にした仲間は、相反する立場で向かい合う。ロアン自ら踏み込みエイジ達に向け発砲する
が、予め仕掛けられていた爆弾を爆破させて辛くも逃亡に成功する。

『貴様のように軽はずみな奴が居るから、私までもが閣下に疑われるのだ!!』

一人逃げ遅れたアーサーを、ロアンは激しく殴りつけるのだった。

『私はグラドスの忠実な僕です』
#30 ベイブル奪回作戦
レジスタンスの実働部隊のリーダーであるデビッドを誘き寄せる為に、修復されたベイブルが移送される事に
なった。運び込まれたのは、地球市民が最も厳しく統制されている居住区―――アーサーから情報を受けた
デビッド達は、レジスタンスの戦力を増大させる為に、罠を承知で外出したエイジの帰りを待たずにベイブル
奪取に向かう。だがそのコックピットにはゴステロが潜んでいた。


地下組織の秘密工場で地球製SPTの開発テストを行うエイジ。すぐさま戦力として使えるものではなかった
が、性能的にはほぼ実用段階に入り、確かな手応えを感じる。そう遠くないうちに実戦投入出来るであろう朗
報を持って隠れ家に戻って来たが、デビッド達はベイブル奪取に向かった後でもぬけの殻だった。


アンナやシモーヌ達の撹乱に乗じてベイブルに辿り着くデビッド。だが潜んでいたゴステロの襲撃を受け、絶
体絶命の危機に陥る。シモーヌの機転で何とかゴステロを振り払いベイブルの奪取に成功するが、その様子
をモニターで見ていたル・カインが冷笑を浮かべた。ロアンに投げ渡されるスイッチ。それは、ベイブルに仕掛
けられた時限爆弾の起動スイッチだった。ロアンが命じられるままスイッチを押すと、ル・カインはそのスイッ
チを破壊し、遠隔操作でのカウント停止を不可能にさせた。


ロアンとル・カインの会話を聞いたアーサーからの通信で、デビッド達と応援に駆けつけたエイジも時限爆弾
に気付く。幾重にも周到に張られた罠はベイブルのキャノピー開閉不可能にまで及び、緊急奪取の出来ない
デビッドとシモーヌは死を覚悟する。だがエイジの必死の救助で爆破数秒前に二人は脱出。互いの手を取り
合いながらレイズナーの手の中へと空を舞い降りた。

『同じ空で一緒に死ねるんなら…!』


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