#36 〜 #38
#36 敵V-MAX発動 |
南米から戻ったエイジとアンナは、それぞれの物思いに沈んでいた。カルラとの戦いで思わず口走ってしまったエイジ への想い。その声が彼の耳に届いていたのかいなかったのか。確かめる事も出来ないまま、ほとんど話もしなくなって しまったエイジを想い、アンナは読書にも身が入らない。マッシュにまで集中していない事を指摘されたアンナは、少し 一人になりたくて隠れ家を出た。 エイジはクスコの遺跡で見た紋章と、姉のジュリアが持つペンダントの意匠が同じ事に気付き、その意味を探って考え 込んでいた。姉に会えば全てがはっきりする。ジュリアに会う為に彼もまた隠れ家を後にした。不自然に互いを避けて いるように見えて、意識しあっているような二人の様子をデビッドとシモーヌは怪訝に思うが、エイジが出掛けた直後に アーサーから情報がもたらされた。グラドス本星からV‐MAXの権威者がやって来て、ゆくゆくは全てのSPTにV‐MAX を搭載すると言うのである。少しでも開発計画を遅らせる為に、デビッド達はグラドスから持ち込まれるサンプルを奪う か、権威者を人質に取る作戦に出る。だがレジスタンスの動きは、ル・カインに読まれていた。 陸送されるV‐MAXのサンプルを略奪、もしくは破壊する為に、輸送部隊を囲むデビッド達。だが貨物車の中に潜んで いたのは警備兵だった。本物のサンプルと技術者は既に空路でグラドスタワーに到着していたのだ。退路を絶たれた レジスタンス達は、ビルの中へと追い込まれていく。偽の輸送部隊は、デビッド達を餌にしてレイズナーを誘き寄せるよ うにル・カインに命じられていたのだ。 一方到着したばかりのV‐MAX技術者ニゾンに、ル・カインはレイズナーを相手に実戦での実験を行うと宣言する。 パイロットの訓練とセッティングに二日は欲しいと言うニゾンに、一時間で準備しろと告げるル・カイン。V‐MAX装備の 試験機のパイロットには、死鬼隊の生き残りであるマンジェロが選ばれた。 ジュリアの元を訪れていたエイジは砲撃の音にデビッド達の危機を察すると、彼らが包囲されているビルにレイズナー で駆け付ける。そこにマンジェロのSPTガッシュランが現れた。ガッシュランのV‐MAX発動に目を瞠るエイジ。だがV‐ MAX時の機体操縦には、エイジに一日の長がある。次第にマンジェロの状況は不利になっていくが、隙をついてガッ シュランをレイズナーの肩口に固定する事に成功した。振り解こうとエイジはレイズナーごとビルに体当たりする。マン ジェロは避けようとするが、ガッシュランのロックが解除不能となりレイズナーのV‐MAXに引きずられる形となる。ニ ゾンはパイロットの訓練とバックパック着脱型のV‐MAX装置の調整期間を設けない代償として、一度レイズナーに取 り付いたらロックが外れないように、ガッシュランを改造していたのだ。フルパワーのV‐MAXにロック部分が耐え切れ ず、ガッシュランはレイズナーから分離した直後に爆発し、マンジェロも機体と命運を共にする。部下の死に、せめて 自分の機体にはレイズナーと同等の方式、力を持ったV‐MAXを搭載してもらいたいとル・カインは口にするが、驚くべ き事をニゾンは告げた。ル・カインのSPTザ・カールには、既にレイズナー同様の内蔵V‐MAXが搭載されていると―― エイジが戻れば彼に全てを話す事を誓ったジュリアをグレスコの密命を帯びたカルラが拉致。聖女は行方知れずとな る。爆撃に気付いたアンナがようやく駆け付けた時には、既に戦闘は終わってしまっていた。自分が感情を持て余して る間に、デビッド達は命を賭けて戦っていた――アンナは、激しい自己嫌悪に陥っていた。 『お前が聖女とはな……何があった!?』 |
#37 エイジ対ル・カイン |
ザ・カールに既にV‐MAXが内蔵されていた事に驚愕を隠せないル・カイン。何故自分にまで秘密にされていたのかと ニゾンを問い詰めるが、第一級軍事機密であった事を理由にそれ以上の説明は拒まれる。次世代戦略兵器の核とさ れながらもV‐MAXが今に至って正式採用されていない理由には、あまりに過酷なその運動性能があった。訓練期間 中に、テストパイロットも含めて十数名もの犠牲者を既に出していたのである。通常の発動よる更に高性能を引き出す 事の出来るレッドパワーの導入も含めて、ル・カインはザ・カールのV‐MAX機能の解除をニゾンに命じた。 街では、クスコの聖女がグラドス兵に攫われたという噂が広まっていた。エイジ達はアーサーに噂の真相を確かめる が、少なくとも表向き聖女がグラドスタワーに連れて来られたという話は聞いていないという。タワーの警備兵すら抗 議に集まった民衆に驚いていた事から、秘密裏に連行されたか、さもなくばジュリアが自ら姿を隠したと言う事になる。 エイジはアーサーの協力でグラドスタワーに侵入して、ル・カインに直接事の真偽を確かめる事にした。 アーサーの手引きでエイジはル・カインがV‐MAXの訓練をしているシュミレーターまで辿り着く。居合わせたロアンと 数名のグラドス兵を昏倒させるとエイジは姉の所在を問い詰めた。知らぬと言い張るル・カイン。グラドスと地球の関係 を知るからこそ姉を葬ろうとしているのではないかと詰め寄るエイジに、ル・カインはなおも知らぬと言い続けた。エイジ はシュミレーターのレベルを上げル・カインに精神的ダメージを与えると、グラドスタワーを脱出した。 ル・カインは父のグレスコにクスコの聖女拉致の経緯を問い質すが、グレスコは知らぬ存ぜぬで通し続ける。カルラも 沈黙を保った為、結局グラドスと地球の関係についても確かめる事は出来なかった。だが父が何も知らぬと言い張る のであれば、自分はその沈黙を利用するとル・カインは言い放つ。 それから程なくして、クスコの聖女護送の情報が幾つものルートから漏れた。罠と知りつつ、ジュリアの居所を掴む為 にエイジは誘いに乗る。V‐MAXを駆使しての戦いは互角であったが、レッドパワーを極めたル・カインのザ・カールの 前に、レイズナーは成す術無く打ち倒される。満身創痍となったエイジに、地球とグラドスの秘密とは何かを問うル・カ イン。エイジは彼がその事実を知らなかった事に驚きながらも答えようとするが、カルラ隊がレイズナー抹殺に動く。 だがレイズナーの秘密を知る為に、ザ・カールがカルラの前に立ち塞がった。 『手出しをすれば、死ぬものと思え!』 |
#38 歪む宇宙(そら) |
グレスコの突然の死により、独裁者ル・カインによる地球統治が始まった。レジスタンスはようやく完成を見た地球製 SPTを戦線に投入し、地球を救う鍵であるグラドスの刻印を守る為に、1999年12月30日、南米のナスカ平原でル・カ インの軍と対峙していた。だがグラドス軍の圧倒的戦力の前に、翌12月31日、レジスタンスは刻印の眠るクスコの遺 跡まで後退を余儀なくされる。最後の戦いを前に、ル・カインは全軍の指揮権を副官となったロアンに託した。 一方クスコの遺跡では、懐かしい宇宙服に身を包んだエイジを前にアンナが動揺していた。マッシュの報せを受けて デビッドとシモーヌも駆け付けるが、共に彼の姿を見て言葉を喪う。彼が口にしたであろう別れの言葉は、上昇を始め た刻印の轟音にかき消されてアンナ達には聞き取れなかった。ゆっくりとヘルメットを被り、リフトの昇降レバーに手を 掛けるエイジ。最後の一歩を踏み出せないアンナの背を、デビッドとシモーヌがそっと押し出す。まろぶように駆け寄っ たアンナにエイジはヘルメット越しの口付けを落とし、刻印を守ってレイズナーと共に宇宙へ飛んだ。 上昇を続ける刻印に対して、攻撃許可を求める前線と司令本部のスタッフたち。だがロアンは、グラドス全軍に撤退を 命じる。彼は牽制に一発発砲すると、タワー内に複数の爆薬が仕掛けられている事を告げ、高らかに地球解放戦線 機構による指令本部の占拠を宣言した。 そう――メトロポリタン美術館の焼き討ちを報せたのも、レジスタンス拠点の手入れ日時を漏洩し、アンナ達に再会の 招待状を送ったのも、地下工場の場所が特定されつつある事を報せたのも、アンナが狙われているという情報を流し たのも、全てロアンだったのだ。かつての仲間を欺き、裏切り者と罵られ、自ら汚名を被ったのは全てこの瞬間の為 だったのだ。軍の末端を叩くのではなく、敵の中枢深くに潜り込み、内部から崩壊させる為に―――エイジやデビッド、 アンナ達とは違う形で、彼もまた地球の解放の為に戦っていたのである。 自分の信頼を裏切ったロアンに、ル・カインは自分が帰るまで命を預けておくと言い残し、ザ・カールを駆って刻印と レイズナーの後を追った。 地上では刻印の発動と共に空にオーロラが輝き、海がうねり、風が逆巻いていた。時空が歪み、宇宙が閉ざされてい く。エイジの帰りを待ちながら、アンナ達は彼と初めて出会った頃の事を懐かしく思い出す。辛い事もあった。判り合え ずに拳を交えた事もある。それでも彼という人間の真実を知り、ある者には無二の友として、ある者には憧れとして、 そしてある者には掛け替えの無い存在へと変わって行ったのだ。蒼く晴れ渡った空を見上げて、アーサーが叫ぶ。 かつて三年前にも、皆でまた会おうと誓った時のように――― 深遠の闇の広がる宇宙に、蒼い宝石のように輝く星。 太陽系第三惑星地球を目指し、レイズナーが虚空を駆けた――― 『お判りください閣下。私は地球人なのです』 |