ONE AND ONLY

さよなら。

これから私は、貴方とは違う世界に生きる。

恐れがないと言えば嘘になるけれど。


さよなら。

大好きだった貴方。これからもきっと、変わらず恋しい貴方。

穏やかな日々は既に終焉を迎えた事を理解したとしても、それでも私はあの懐かしい日々を望んで止まない。



さよなら。


大きくて骨っぽい温かなこの手とも、『井上』と呼ばれると嬉しかった力強い声とも、全部さよなら。

ずっとずっと好きだったのだと、自分の言葉で、面と向かって言えたらどんなにか良かったのに。




貴方にとって私は、背中を預ける仲間の一人に過ぎないのでしょう。

だけど私にとって貴方は、今も手を触れる事の出来る人達の中で、一番大切な人だった。


もしも私が貴方の前から消えたなら、貴方は私を探してくれるかな?

私という存在が消えた世界で、時には私を想い出してくれるかな?


貴方は私の命の証。

存在の道標。

私は自分を誇ってもいい?

この世の誰からも忘れられても、貴方に必要とされた瞬間があったという事を。


貴方は赦してくれるかな?

例え未来を喪う事になっても、今、貴方を喪わない為に世界に背を向ける私を。



私の痛み。

貴方の苦しみ。

今は全て持って行く。

何一つ説明出来なくてごめんなさい。

いつか全てを話せる時が来たら、きっと貴方の気が済むまで謝るから。


貴方はもう、私の一部。

喪っては生きられないから。



ありがとう。

ありがとう。



そして………さよなら。








ONE AND ONLY








織姫の手が、包帯の巻かれた一護の手をそっと握る。
重なった掌の上に、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。


これからたった一人で、敵地に足を踏み入れる。
一護や死神達が準備を整え終わるまで、藍染に自分に利用価値があると思い込ませる為に。
それは果てしのない深遠に身を投じるのに等しくて、本当は怖くて仕方が無かった。

しかし今の自分に、他に選べる道は無かった。
一護や仲間の命全てを対価にされて、逃げ出す事など出来る筈もない。
自分一人が進んで敵地に身を置くだけで、他の者の取り合えずの無事を確保する事―――それが全て。



「貴方と出逢えて良かった」



昏々と眠る一護の顔に視線を合わせるようにフローリングに跪き、囁くように口にする。

兄の死と引き換えに、一護との縁は結ばれた。
今の力を自分が得たのも、人並み外れた霊力を持つ一護の存在故だという。
兄を喪った当時の事は、思い出す度に胸に小さな痛みを生んだけれど、
親友のたつきの励ましと一護と出逢えた幸運が、ゆっくりとその痛みを癒してくれた。



「貴方を好きになって……良かった」



彼を愛しく思えばこそ、これから待ち受けるであろう試練にも耐えられる。
世界の理に背を向けた裏切り者と死神たちに罵られようとも、一護を守る為だと思えば、顔を上げ、胸を張っていられる。
きっと一護は苦しむから、『貴方の為だった』とは伝えられないけれど。


やりたい事はいっぱいあった。
就きたい仕事も、夢もたくさんあった。
だけどどんな人生を歩むのだとしても、最後に願うのは唯一つ―――

それは、いつか可愛いお嫁さんになること。
大好きな人と一生を添い遂げること。
兄が亡くなるその日まで自分に与えて続けてくれた優しさと温もりを、今度は自分が与えられるように。

そんなささやかな願いさえ、もう叶う事はないのかもしれないが。



握った一護の指先に、そっと口付けを落とす。
慈しむように、労わるように、微かに触れるだけの口付けを。


「大好きだよ―――黒崎君」


例え貴方が、誰を選ぶのだとしても。

私は貴方に恋をした。
貴方に恋して、私は幸せだった。
―――それだけで十分。



大好きだった貴方。これからもきっと、変わらず恋しい貴方。

穏やかな日々は既に終焉を迎えた事を理解したとしても、それでも私はあの懐かしい日々を望んで止まない。






「さよなら」






それは戻れない道へと足を踏み出す、最後の呪文。
涙の滲む瞳に、眠る一護の面影だけ灼き付けて。


人間界と尸魂界から、井上織姫はその消息を絶った―――

                                                             【FIN】


あとがき


今回珍しくコンパクトなお話になりました。突発のBLEACHネタでございます……コミックス27巻を読んだら、もうどうしてもどうしても書きたくて(笑)
タイトルの『ONE AND ONLY』とは『唯一無二』という意味。
織姫が『別れを告げる事を許された唯一人』として一護を選び、彼の部屋を訪れた時のエピソード。現OPにも同シーンのイメージが流れてますね。
本当はベッドの向こう側に夏梨と遊子が寝てるので、あまり独り言も話すべきではないのかもですが(^_^;)
見えてないにしても、夏梨は霊感強いしねぇ。もしかしたら見えるかもしれない。

眠ったままの一護にどうしてもキス出来なかった織姫ちゃんが歯がゆくて出来た話だと言っても過言ではない(笑)
今の若い子って、織姫ちゃんみたいな子は嫌いなの…?中学時代はイジメにもあってたし。
髪の色が目立つからと言っても天然なんだから仕方が無いし、成績良いのも見栄えが良いのも彼女の努力と持って生まれたもの。
自分でどうにも出来なかった事と努力で手に入れた才能をやっかまれたら堪らないよなぁ…
私は織姫ちゃんのように健気で努力家の女の子、大好きなんですけどね。

背景のシャボン玉?は、涙の雫のイメージで選びました。
本当は青いガラス玉の方がイメージ合うんだけど、黒背景で青いガラス玉の画像はそう無いので…(白背景ならたくさんあるけど、コレって夜のシーンだし)
以前のEDだった『桜日和』は、私は思いっ切り一織のイメージで聞いてました。
これって、皆それぞれ好きなカプをイメージして聞いてるんだろうなぁ(笑)

                                                  麻生 司


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