乙女ゲームは個人的な当たりハズレが大きいジャンルなので、 (世間的には高評価でも自分が楽しめるとは限らない) 発売前予約はせず発売後数日間、市場の評価を見て購入決定。 『ニル・アドミラリの天秤』購入時のトラウマにより迷いつつも、 メモリーカードの容量節約の為にパッケージ版で購入。 割とあっさりとした登場人物紹介も兼ねた共通ルートの間にも、 ジワジワながらも着実に積みあがっていく分岐フラグとTIPS。 このTIPSというのがなかなか曲者で、トロフィーコンプを狙っているなら、少々退屈でも迂闊なスキップは厳禁。 TIPS対象単語が表示されるだけではコンプ率に反映されず、きちんと別項見ないといけないので、 後の手間を省く為にも序盤からしっかり拾っていった方が賢明。 実際、私も序盤の共通ルートで落としていた一つがなかなか発見出来ず、 余計なルートをグルグル無駄に周回する事になったので。 あとプロローグや共通ルートは周回の度合いによってちょっとずつ変化するので、 そこはスキップ機能をフル活用しながら(既読のみスキップ仕様で)確認してみて欲しい。 ビックリしたよ、トアルートで見た覚えの無いイベントの話された時は(笑) 見てないイベントなのに話に出るって事は、フラグ管理が甘いんだろうけどね。 こういう周回要素のあるゲームに慣れてる人ほど、途中セーブを上手に使い回すから見落とすんだよねぇ。 とは言え、コレかなり美味しいイベントスチル込みなので、是非。 デフォルト名じゃないと登場人物に音声付で呼んでもらえないので、『花蒔イチコ』のままプレイ推奨。 共通ルート時点でCGコンプの為に色々違う選択をする必要があるんだけど、 実際に初期段階で分岐するのはヒノとイソラのみ。 後は段階を踏んでトア→ソウスケ→ユヅキ→真相の順でルート解放されます。 以下、ネタバレとか考察しながらの感想なので、これからプレイする方は自己責任で。 ※※※※※ このお話、元々ミステリ要素がある点を前面に出してメディア紹介されてたんですが、 どちらかと言うと伝奇物というかオカルト系に分類した方が良かった気がします。 確かに主人公の兄の失踪とその真相、という文言だけ拾うとミステリなんだけど、 序盤からザクザク出て来る屍人(しびと)伝承やら、舞台となった奥音里で起こるという怪異の数々。 伝奇物大好きなんで、あ、これはイケる(笑)と私的にはホクホクしておりました。 最初に選べる二人の内では、ヒノの方が圧倒的に高感度高かったのでそのままヒノルートへ。 誰の趣味だか判らない、かなりドギツイ模様のヒノの浴衣にビビりながらも、お約束の夜祭イベント。 此処でヒノにはかなり強烈な銃に対するトラウマがある事が判明。 ヒノルートの終盤で判明するんですが、 実はヒノは子供の頃にイチコと共に連続殺人犯と対峙する羽目になっておりまして。 イチコを助ける為には犯人を撃たなければ、でも撃てない、怖い、でも助けたいという葛藤があったんですね。 その窮地を救ったのが、失踪したと言われているイチコの兄。 ヒノが葛藤の末にどうしても引けなかった銃を広い、引き金をあっさり引いて、ヒノとイチコを救出。 …あれ?兄貴、人殺してる? ここでおや?と思った人、結構居たと思うんですよ。 無我夢中で撃ったら当たったというレベルじゃなく、『一発で仕留めた』『目の前で人の頭が撃ち抜かれた』と ヒノが言っているので、相手は完全に死んでる。 幾ら妹とその友人助ける為とはいえ、そこまでするか?とか、 失踪当時で二十代後半くらいだろうから、一体幾つの時の武勇伝なんだよとか、 正当防衛かもしれないけど、その後何の罪にも問われなかったのかとか。 だけどその後の展開がなかなかに性急で、何だか有耶無耶なまま進めてしまう事になるんですよね。 何せヒノが撃たれたり、これまでの進行のさせ方如何では、そのまま回復せず死にEDになったり、 ヒノが主人公庇って死にEDになったり、主人公自身の死にEDになったりととにかく死にEDが多い(笑) 基本的には好感度を落とさない選択をし(エフェクトをON状態にしていると判る)、 ヒノの思いを無碍にしないようにしていれば大丈夫な筈。 ハッピーEDとしては一番目か二番目で必ず見る事になるヒノEDですが、 一人をクリアした程度ではまだまだ奥音里の謎は明かされません(笑) 失踪した兄さんに関しては暫定死亡?で、ヒノルート終了。 次にイソラルートへ。ヒノとの実質二択なので、一番目に攻略したという人も多いのでは。 彼はカフェを切り盛りするほどのシェフとしての腕前を持っているものの、まだ十七歳の高校生。 主人公より若干歳下という設定と、ノリが良いというかキャラが軽いというか…女好きという訳ではないんだけど。 そして時折垣間見える病んだ印象が相まって、最後まで苦手なイメージが付き纏った。 実際、攻略終えて経緯が判っても怖い(笑)主人公ちゃんの事が好き過ぎて、一周回って病んだ感じ? 主人公が大事、護りたいという思いは判るんだけど、その手段が常軌を逸してて恐怖。 そして二周目を終えた辺りで何となく察する、コレもしかして相手男性は、 幼馴染のヒノ以外、全員奥音里の出身じゃないの?という予測。 三人目となるトアも実は…という流れでほぼ確定(笑)何故隠す!ww 正直、攻略キャラの中では当初一番ピンと来なかったキャラ。 ぞろっとした長髪に瓶底眼鏡、真夏なのに半纏姿とか、お前本当に乙女ゲームの攻略対象かと(笑) ところが一周目から散々その存在を匂わせておきながら、一向に姿を見せる事の無かった歌手、 元アークゼロのA-TO(エイト)こそトアだったと種明かしされて、自分の察しの悪さを思い知る。 トア=TO-A=A-TO=エイトね。なるほど… 言われてみれば顔を半分隠す髪とか度の強い眼鏡とか、 顔を出して眼鏡外したら実はイケメンです、の代名詞みたいなもんだよな(笑) そして三周目を始める頃には、どのルートでも度々イチコを狙ってきた猫面の男の正体が判って来る。 男性、という事だけは確定しているのでユアは除外。大人の体格なのでユキ(注・少年)も除外。 シナリオによって犯人が変わるという設定でも無いようだから、攻略対象キャラも除外。 名前も顔も声優さえ提示されないようなポッと出のモブキャラが犯人とは考え辛いと考えると、 正直もう、ヤスか月読かのほぼ二択(笑) で、イソラ編のラストで猫面凹った直後にヤスとは顔を合わせているので、ヤスも除外。 となると、自動的に猫面の男の正体は月読という事に。 然程詰まる事なくあっさりトアのハッピーEDは迎えられるんだけど、 スチル確認すると、あれ、何だかまだ大量に未開放のスチルがある…? 何処かでバッドEDへのフラグを踏み損なったかと何度もやり直したけど、結果は変わらず。 仕方が無いので、此処に来て攻略サイトにお世話になった。出来れば自力でコンプしたかったんだが。 なんでもトアに関しては、ユヅキまで攻略した時点で真相ルートというのが開放になるらしい。 それじゃ待つしかないなで、四人目のソウスケルートへ。 案の定、お話を進めていくと判明する奥音里出身者であるという過去。 ソウスケも例に漏れずだったけど、此処に来てもう一つ大事なフラグが。 どうやら攻略対象キャラは、子供の頃に奥音里で主人公ちゃんと何かしらの縁があったらしい。 主人公のイチコは何らかの理由で、子供の頃の記憶が曖昧。 色んな人から奥音里は初めてか?と聞かれて、戸惑いながらも初めて(の筈)だと答えてる。 でもどうやら、過去に一時期とは言え、イチコが奥音里に居た事は間違いない。 それぞれのルートでそれぞれに関わる記憶は少しずつ戻ってるんだけど、 メタ視点では繋がる記憶が、イチコ視点では繋がらないので、謎は謎のまま。 ソウスケルートでは、ようやく奥音里を牛耳る叢雲家と接触。 序盤から散々名前だけ聞かされてきた、屍者を狩る為の組織、屍葬組との接点も出来る。 屍者が蘇るのに必要不可欠?な紫姓草が咲き誇る谷の存在も明らかに。 イチコの失踪した兄の容姿を聞いたソウスケが、 十年ほど前にその谷で見た『濃厚な死の気配を纏った男』の姿に重なると言い出し、 更に謎が深まるばかり。 但し谷で見掛けた男の姿は当時既に大人であった事から、 イチコの兄ではないだろうとソウスケは結論付けたものの、真相は如何に。 ちなみにこのソウスケルートで猫面の男が月読であり、尚且つ屍者であった事が確定しました。 そして攻略キャラ最後の一人、ユヅキルートへ。 今まで散々主人公達に悪態をついてきた人ですが、 案の定と言うかお約束と言うか、結構早めにデレました(笑) これまた定番の、体調悪い時に看病という鉄板ネタで。 物語冒頭で入ってくる音声がユヅキのものなので、屍者狩りしてる側というのは察しがつくんですよ。 ただそういった立場の人がどういう経緯を経てデレてくれるのか、という点が楽しみだったんですが、 結論から言えば彼は既に屍葬組からは異端=無能扱いされるくらいに、情が深く優しい人でした。 背中に目印となる痣が無いから屍者ではない、という理屈は、 確かに真相ルートを見た後だとおかしいと気付けるんですが、 (=屍者だとしても誰一人殺していなければ、背中に特徴となる痣は出ないから) 少なくとも過去の例に照らし合わせると、屍者が人を『殺めない訳が無い』という固定観念を捨てられない以上、 『人を殺める事をせず、このまま人として静かに消えてしまいたい』と考える屍者の存在を 到底受け容れる事は出来ない訳ですな。 でもこれ、イソラの父親の件も考えるとごく最近の特例と言う訳ではなく、 恐らく昔から一定数存在していた屍者の言い分を、 屍葬組が一切聞き入れてこなかった、という事なんだろうなと。 ユヅキルートでもしソウスケ父が存命だったなら、 今後もユヅキの良い味方になってくれただろうにと残念に思う。ヤスが全く同志として使えないし(笑) ソウスケはあくまでも事態収拾の為に屍葬組への加入を名乗り出ただけで、 本気で仲間になる気はなさそうだし。 窮地に陥ったユヅキとイチコを最後の最後で救ってくれたのは烏丸さんでした。 序盤ではいきなり煩いとかキレられるし、行動は不審だし、ユヅキなんかは実際に凹られるしで、 何なんだコイツはと正直思う事もあったけど、真相を知れば成程納得。 彼もまた亡くした妻を今も愛し続ける、情の深い人だったという事で。 …で、いよいよ明かされる真相編。 まずはユヅキ攻略完了によって、トア編の真相ルートが開放に。 途中の人狼ゲームでは明らかにユアが不利だったけど、逆に言うと不利過ぎてコレは違うなと思ってた。 プレイヤー騙すつもりなら、もっと上手く立ち回るだろうし。 寧ろメタ視点では、屍者と確定している月読がいつボロを出すんだろうとドキドキワクワク(笑) 警官のヤスが案の定とことん使えないクズだったのがもう。 しかしまあ序盤で集合した時点で、既にトアが屍者だったとはね… 私はどちらかというと、こういうフラグを見抜く事に関して鈍いので、 正体バレた時の衝撃は結構なものでした(笑)ユアが二卵性の双子の姉だった事も。 トアは烏丸の亡妻ツヅリと同じく、『誰も殺めず、このまま人として消えて行く』事が望み。 自分が生きていた証として最期のライブを成功させたいという想いだけで、仮初めの命を繋いでいました。 よくイチコをギュッとハグしながら充電させてと言っていたのは、文字通りの意味。 彼女の放つ生気?といったものからエネルギーを貰う事で、辛うじて永らえていた。 バラード曲である『Starry』を高らかに歌い上げながら消滅していくトアは美しかったです… 出来れば音声付で聞きたかったよ(笑)サントラ買うかなw そしていよいよイチコの兄の失踪に関する真相が、彼自身の口から語られる時がやって来ました。 イチコの兄である彼の名はハナテ。 最後の最後まで秘されて来た彼の真の名は、花蒔姓ではなく、夜刀神ハナテというものでした。 歳の差がある兄妹のような気はしていたから、姓の違いだけなら養子の可能性もあったけど、 ふと過ぎるそんな可能性は、彼自身の語りによってあっさりと否定される事に。 ハナテは少なくとも数百年、もしかしたらもっと永い時間を生きてきた屍者。 遠い昔に『エサ』と称する特殊な存在を殺めた事で、以降は生者を葬るという渇きを覚える事なく、 永劫の命を獲得した極めて特殊な屍者でした。 『エサ』を殺めた屍者の背中からは、罪の刻印である痣が消滅する。 そして以降は人を殺める必要が無い事から、未来永劫変わらない容姿と寿命以外、 人と何の違いも無い存在になった。 ただ永過ぎる時間は、ゆっくりとハナテの本来の人格を歪めて行ったのでしょう。 いつしか彼は屍姓草の番人となり、毎年黄泉帰る屍人の苦悩や狂態を見て楽しむようになった。 そうして何百年もの時間を過ごすうち、屍者を見分けたり、 人の記憶を自分の都合の良いように改竄出来るという能力まで獲得した。 人の世界である奥音里に紛れ込み暮らしているうちに、時代は移り、現代へ。 其処で出会った、イチコという存在。 彼にはもう、生者を狩るという欲望は無い。 だけども『エサ』として生まれついたイチコを、他の屍者に殺させるのも嫌。 だったら、自分の手で護ろう。彼女の傍で…… 当時まだ少年だった月読の毒牙からイチコを護ったハナテは、その足で彼女を連れて奥音里をを脱出。 以降は彼女の兄として傍にあり続け、恐らくは何度もイチコを襲った魔の手から彼女を護り続けたのでした。 真相を告げられたイチコはハナテが兄ではなかった事に衝撃を受けたけれど、 それはハナテの存在そのものを否定するものではありませんでした。 正直他のどのルートよりも、深くて揺ぎ無い情愛を感じましたとも。 屍姓草を燃やして滅する事で、ハナテ自身も仮初めの命を散らした…訳ですが、 東京にあるイチコの実家には、ソウスケからイチコに託された屍姓草が一輪。 最後に聞こえるイチコを呼ぶ声は、彼女を見守るという彼の願いの残滓と考えたい。 で、フルコンした上で明確には明かされなかった謎や、伏線めいたものについて少し。 ヒノルートで好感度を上げ損なっていると、ヒノが銃創による衰弱から回復しないまま亡くなるんですが、 これ『警察が死因を調べている』でEDになるんですよね。 ところが『ヒノが回復して退院したら、東京まで送るから』と約束してくれていた月読が屍者だった事を考えると、 ヒノを殺したのは間違いなく月読ですよねぇ… 屍者絡みの死人だから、警察としては死因不明で処理したのかと。 あとユヅキが、自分が失脚しても後継者のアテはあるんだろうと言っていた事から、 どうやら非嫡出の異母兄弟がユヅキには居るらしい。 これに関しても作中では名言はされてないけど、当てはまりそうなのは一人しか居ない。 ユヅキの穴を埋められそうなくらい優秀で、尚且つ父親が不明。 シングルマザーの母親に育てられた、というユキがユヅキの異母弟でしょうな。 そうした含みもあるから、中一にも関わらず、ユヅキが仕事手伝わせてるんだろうし。 伝奇物として興味が湧いた一因として、登場人物の名前に日本神話の影響が見られた事も大きかったです。 主人公のイチコちゃんだけは特に要素が見当たらなかったんだけど、 迦具土ヒノは火の神様であるヒノカグツチノカミ(火之迦具土神)、 甘梨イソラは海の神であるアヅミノイソラ(安曇磯良)、 櫛奈雫トアはスサノオに見初められ妻となったクシナダヒメ(櫛名田比売)、 建比良ソウスケは古事記に登場する神であるタケヒラトリノミコト(建比良鳥命)、 叢雲ユヅキは三種の神器の一つである草薙剣の異名アメノムラクモノツルギ(天叢雲剣) …が、恐らく出展ではないかと。サブキャラも一応挙げておくと、 須沙野ユアは天照大神の弟であるスサノオノミコト(須佐之男命)、 比良坂ユキは黄泉と現世を繋ぐ坂であるヨモツヒラサカ(黄泉比良坂)、 久々利ヤスヒサは日本書紀に登場するククリヒメノカミ(菊理媛神)、 烏丸チカゲは神武天皇を導いたとされるヤタガラス(八咫烏)、 月読カグラは天照大神の弟でありスサノオの兄であるツクヨミノミコト(月読命)、 そして夜刀神ハナテは常陸国風土記に登場する蛇神であるヤトノカミ(夜刀神) …辺りと推察。烏丸は微妙だけど、神話絡みだとアリかなぁと。 双子であるユアとトアが、夫婦となるスサノオとクシナダヒメに所縁があるのが面白い。 作中でも触れられているイワナガヒメの呪いとか、何故そうなったのかという所以がまた面白いので、 興味のある人はじっくり読んでみると良いと思う。 サラッと書くと、顔で人を選ぶ男神が、永遠の命を持っているブスの姉神を振って、 美人だけど限りのある命しか持たない妹神を嫁にした結果、 姉神の呪いで人間には限りのある寿命が与えられたのだという超迷惑な話(笑) とまあ、色々書いてみた訳だけど、 あのキャラのこんなシーンや、あのキャラのアレなシーンとか色々あったけど、一言で纏めるなら… 緑川光に全部持っていかれた。 …かな(笑) お陰で他のキャラの印象がすっかり薄まったわ。またお前がオチかよと(笑)(@ニル・アドミラリの天秤) |