微笑む花


     『……朝夕、随分と風の冷たい季節になって来た。風邪などひいていないか?
      君は少しの事なら我慢をしてしまう性質だから、具合を悪くしていないか心配だ。
      陛下もラナ王妃もお気持ちの優しい方だから、遠慮せずになんでも相談して……』

     膝の上に広げた手紙が露台に吹く風に乾いた音を立てる。
     もう秋も終わりだ。数日前には今年初めての雪も降った。
     夜はそろそろ暖炉に火を入れようかという時期だが、昼間の太陽のあるうちはまだ暖かい。

     露台には、こじんまりとした椅子とテーブルが一組置かれている。
     そのしっかりとした造りと温かみのある飾り細工を施したのはまだ歳若い職人だったが、
     視察に出た城下でこの品を見付けた異父兄のセリスが、ユリアの為にと買い求めてくれた物だ。
     以来その小さな椅子に腰掛けて、風に膨らむ銀色の髪を手で抑えながら手紙を読むのが、
     いつしか数日に一度のユリアの日課となっていた。

     

     「スカサハからの手紙かい?」

     背中に掛けられた声にユリアが振り向く。
     そこには亡き母と、血の繋がりの無い義父の面影を宿した兄―――セリスの姿があった。

     「ええ、そうです」

     答えるユリアの頬に朱が差す。
     この異父妹はあまり自分の感情を面に出す性質では少ないのだが、唯一の例外が週に一度届く手紙の差出人の事だった。

     ドズル公爵スカサハ―――彼はセリスとは一番付き合いの長い幼馴染みであり、そして今はユリアの恋人でもある。
     長きに渡った戦乱の後、かつての朋友達の多くは恋人を連れてそれぞれ縁のある地へと戻って行ったが、
     中には敢えて一時の別離を選んだ者達も居た。

 

     シレジア国王となったセティと、母の生家であるフリージ公爵家を継いだティニー。
     そして父の生家であるドズル公爵家を継ぐ事になったスカサハと、
     バーハラ王家の直系の証を持つが故に、異父兄の傍に残る事を選んだユリアである。

     セリスはバーハラ王女であったディアドラの長子だ。
     彼は父の生家であるシアルフィ家の血で剣の才を伸ばしたが、母方の魔法の才は際立って受け継がなかった。
     母の血を最も濃く継ぎ、王家直系の証である光魔法ナーガを継承したのが、末子のユリアだったのである。

 

     「週に一度は手紙が行き来しているのだろう?スカサハがそんなに筆まめだとは知らなかったよ」

     スカサハという男を簡潔に言い表すなら、『寡黙』の一言に尽きる。
     普段から口数の多い方ではないが、ごく親しい仲間内でも無駄話はほとんどしない。
     寧ろ気心の知れた相手の前では無理に話す必要も無く、黙って聞き役に徹する事が多かった。
     言葉に偽りが無いという点で、彼の発言には仲間も一目置いている。
     『話す』という行為に不得手でも、彼の誠意は自ずと相手に伝わっていた。

     そのスカサハが、物静かで儚げな――今では随分明るくなった――ユリアの恋人となったのは、
     ある意味自然な成り行きだったのかもしれない。
     どちらも自分から多くを語る方ではなかったが、互いの存在が傍に在ればそれでいいと…素直に思えたのではないだろうか。

    だが一週間に一度途切れる事なくユリアに便りを寄越す筆まめぶりは、セリスにとっても驚きだった。
     自分は彼の事を良く知っていると思っていたが、十数年間一緒に暮らしていながら初めて知った一面である。

     「読ませてくれとは言わないけど、どんな事が書いてあるのか興味が湧くよ」
     「こうして兄様や、ラナ義姉様とお話しているのと変わらない事です」

     悪戯っぽく尋ねたセリスに、頬を染めたユリアがにっこりと笑みを浮かべる。

     「体調を崩していないかとか、今年は作物の出来が良かったとか。
      あと、ドズル城の中庭に綺麗なお花が咲いたそうです。スカサハには、その花の名前が判らなかったようですけど」

 

     にこにこ。     

     「……それだけかい?」
     「ええ、それだけです」

     あまりに曇りの無いユリアの笑顔に、思わずセリスは喉まで出かかった言葉を飲み込んでしまった。

 

 

     「……と、こんな調子らしい」
     「まあ。でも、スカサハらしいわ」

     私室に戻ったセリスは、ラナに先程のユリアとの遣り取りを話して聞かせた。
     あまりと言えばあまりにスカサハらしい手紙の内容に、生まれてまだ数ヶ月の息子を抱いたラナも思わず苦笑いを浮かべる。

     「本人同士が全く意に介していない事を、横から口出しするのはどうかと思うよ。
      でもユリアとスカサハは、ただのご近所づきあいをしている訳じゃないんだから」

 

     今は事情があって離れているが、二人は仮にも一度は将来を誓った仲である。
     もうちょっとこう正直に『愛しているよ』とか、それに類する文言があるかと思ったのだが―――
     手紙の結びの言葉は、決まって『身体に気を付けて』とか、ユリアの健康を案ずるものばかりであった。

 

     「でもそれは、スカサハがユリアの身体の事を案じている証でしょう?確かにユリアは、丈夫と言い切れる性質でもないですし。
      週に一度、絶えずに手紙を寄越してくれているだけでも立派だと思いますけど」

     女性の立場で言わせてもらうなら、釣った魚に餌をやらないという男性も多い中で、
     遠くからでも気に掛けてくれるだけマシだと思うのだが。
     同じ男としては、セリスは少々思う所があるようだ。

     「恋人から届く便りが毎回季節の作物の話や、新しく市に立った店の話だけでも構わないと?」
     「あら、それではセリス様はスカサハが毎回違う花束と一緒に手紙を送って来たり、
      『愛している』とか『今すぐ君を攫ってしまいたい』とか書いてくる方がいいんですか?」

 

     少しばかり意地悪い口調でラナがそう口にすると、
     セリスは彼女から抱き渡された息子を抱いたまま、神妙な顔をして黙り込んでしまった。
     あまりにも想像し辛くて、思わず寄せた眉間に皺が寄る。

     「貴方がユリアを託してもいいと思ったスカサハは、そんな人ではないでしょう?なら、黙って見守るべきではないかしら」
     「……そうだな、その通りだ」

     自分は、少しばかりお節介が過ぎるのかもしれない。
     だが妹に幸せになって欲しいと望むのは、決してお節介だけではないと思うのだ。

     「スカサハは真面目な男だからな。セティとティニーの事があるから、余計に遠慮しているんだろう」

 

     聖戦士の末裔で、歳に不足は無いが今も伴侶を持たない者は何名か存在する。

     『まだ望む相手が居ないから』という理由で独り身を通しているのが、ユングヴィ公爵ファバルである。
     仲間内でも最年少であったエッダ公爵コープルは、『まだ家庭を持つ歳でもありませんから』と言う事で、やはり独身だ。
     バーハラ王家を継いだセリスに代わりシアルフィ公爵となったオイフェも壮年だが、未だ独身だ。
     だが彼には既に決めた相手が居る、という噂もある。
     噂の出所がファバルなので話半分と言う所だが、何でもシアルフィの城下で見初めた女性がいるらしい。
     また旧トラキア地方の領主となったアルテナ――セリスの従姉でもある――は、思う所があるらしく一切の縁談を断わっていた。
     弟のリーフが色々と彼女の為に尽力しているらしいが、未だに成果は上がっていない。

     だがセティとティニー、スカサハとユリアは少々事情が異なる。

 

     「でも、そう言う事なら……」

     ラナが、ちらと夫の横顔を伺い見る。
     セリスは『うん、そうなんだ』と呟くと、どうしたものかと思案した顔付きで頤(おとがい)に手を当てた。
     その前髪を息子が『うー?』と言いながら引っ張っているので、いまいち緊迫感には欠けたのだが。

     「それもあって、何とかしたいと思っているんだよ」
     「そうですね……」

     ラナにとってもユリアは大切な義妹であるし、スカサハは幼い頃から苦楽を共にして来た幼馴染みである。
     幾ら人の恋路に口を出す物ではないと判っていても、セリスと同じく何とか上手く仲を取り持ってやりたいと思う気持ちはあるのだ。
     ましてや、一つの転機を迎えた今ならば尚の事である。

     「一週間後の領主会議で、例の件を正式に公表する。その時に上手く話を進められるといいんだけど」

     コツン、とセリスの指先がテーブルを叩く。
     ラナの腕に息子を返した彼はペンを取ると、一通の手紙を認(したた)め始めた。

 

 

     『夜には暖炉に火を入れるようになりました。
      城外の視察が多いので、貴方は余計に寒さを感じる機会が多いのではないかしら。
      最近は義姉様と一緒に編物をする事が多いの。
      出来上がりを想像しながら編み針を動かしていると、あっという間に時間が過ぎてしまうのよ……』

     スカサハは城の執務室で、今朝ユリアから届いたばかりの手紙に目を通していた。
     変わらず元気そうな様子に、とりあえずホッと安堵の息をつく。

     ユリアはその儚げな面差しとは対照的に、思った以上に我慢強い。
     倒れそうな程に疲れていても『大丈夫』と言い、自分が熱を出していても、負傷兵の為に回復の杖を振り続ける娘なのだ。
     傍に居られないからこそ、口やかましい程に身体に気を付けろと念を押してしまう。

     「……サハ……スカサハ」

     セリスの妻となったラナは母のエーディンに似たのか、昔から編物や刺繍など、手先を使った事が得意だった。
     恐らく春に生まれたばかりの王子の靴下や上着などを、ユリアも一緒になって編んでいるだろう。
     うっかり根を詰めすぎて、熱など出していなければいいのだが。

     と、傍に居ない恋人の事を想いながら、しばし瞑目していると……

 

     「……おいコラ、スカサハ!いい加減に返事しやがれ!!」
     「……っ痛……!!」

     ゴン、と硬い物で頭を殴られ、スカサハがハッと我に返る。
     頭を押さえながら顔を上げると、目の前には激しく不機嫌なヨハルヴァの姿があった。
     彼の手には書棚から拝借したらしい立派な装丁の本があり、どうやらその角で殴られたらしい。

     仮にも領主に対して酷い扱いだが、彼はれっきとしたスカサハの父方の従兄である。
     本来ならば領主となっていてもおかしくはなかった上に、地の性格が良くも悪くもざっくりしているのだ。
     別にスカサハが相手だからこう言う調子なのではなく、彼はセリスの前でも変わらない。
     頭の堅い老人なら眉をひそめるところだろうが、今更だからと、
     特にスカサハもヨハルヴァに対して今まで注意する事も無く現在に至っている。

     「いつまで女の手紙で呆けてやがる。明日には領主会議に出発するんだろうが。準備は出来てるのか?」
     「準備も何も、荷物なんてほとんど無いよ。他国からならともかく、同じグランベル国内なんだし」

     丁寧に手紙を折畳みながら、スカサハはそう言って苦笑いした。

 

     ドズル領からバーハラ王城に行くには山間部を迂回して西部の谷間を抜けなくてはいけないのだが、
     馬を飛ばせば一刻(二時間)で王城に辿り着く。
     荷物といったら剣と財布、それに領主会議の席で身につける正装用の衣服くらいのものだ。
     元々バーハラ王城には、各領主が滞在する為の部屋が常に用意されている。
     そこにも幾らかの着替えなどは置いてあるし、最悪バーハラの城下で足りない物は買えば間に合うので、
     実は手ぶらで行っても何とかなるのであった。

     「数日滞在してくる事になると思う。その間、留守を頼むよ」
     「おう、どんと大船に乗った気で行って来い」

     ヨハルヴァは暗黒教団の子供狩りに解放軍合流前から反発していた事もあり、
     持って生まれた兄貴肌の気性も相まって、今でも領民には親しまれている。
     それ故に、領地を彼に任せて留守をする事に不安は無かった。

     

     ヨハルヴァが退室した後で、執務机の引出しを開ける。
     そこには几帳面に収められたユリアからの便りの他に、異なった封蝋をされた手紙が幾つかあった。
     つい先日届いたばかりの一番上の封書に手を伸ばし、折畳まれた手紙を広げる。
     思慮深い、と評される事の多くなった寡黙なスカサハの横顔が、いつも以上に真剣な面持ちになった。

     「……時は満ちたと、貴方はそう言いたいのか。セティ王……」

     小さく呟かれたその声は、だが誰の耳に届く事も無く静寂に紛れた。

 

 

     「スカサハ、お久し振りね」

     数ヶ月ぶりで訪れたバーハラの王城で、ユリアはスカサハの笑顔に出迎えられた。
     駆け寄る華奢な身体は相変わらず羽根のように軽い。だが肌の色は良く、健康そうな様子にスカサハはホッとした。
     やはり久し振りに会う恋人が変わらずに居てくれるのは嬉しいものだ。
     だがそれが容姿や態度ではなく彼女の健康であるという事が、スカサハの意外に過保護な一面を表しているのかもしれない。

     「随分長い間、便りしか寄越せなくて悪かった。元気だったかい?」
     「ええ大丈夫。ありがとう、スカサハ」

     スカサハにも領主としての務めがある。自分にも王妹として、自ら負った責務がある。
     それは自分達で選んだ事であったし、離れていても互いを想う気持ちは変わりない。
     遠慮がちに抱き締めてくれるスカサハの手は変わらずに暖かく優しくて、ユリアにはその事が何よりも嬉しかった。

     「他の者はもう着いているのか?」
     「コープルは先ほど。他の方も直にいらっしゃるでしょう」

     そこまで口にして、ユリアがクスクスと笑う。
     一瞬訝しげな顔をしたスカサハも、理由に思い当たり苦笑いを浮かべた。

     「今回もまたファバル待ちか?」
     「前回のように、皆で丸一日待つ羽目にならなければ良いのだけど」

 

     数ヶ月前に行われた領主会議の時に、ファバルは一日遅れで到着したのだ。
     その理由が、出掛けに領地内で起きた喧嘩沙汰の仲裁をしていていたのだという。
     仲裁に入られた方も、まさか諌めに入ったのが領主のファバルであるとは気付かなくて、
     ――現在の領主で『らしく』見えるのは、シアルフィ公爵オイフェくらいのものだ――延々と付き合わせてしまったのだそうだ。
     ようやく双方納得の行く形で矛が収まった時には、既に日が沈んでいたのだと言う。

     ユングヴィ領はグランベルでも最もバーハラ王城から離れた西南部に位置している為、どんなに急いでも半日は掛かってしまう。
     結局ファバルが到着したのは、翌日の昼前だった。
     理由が理由であるし、差し迫った議題――例えば他国の侵攻を受けているなど――があった訳ではないので、
     笑い話で済んだのだが。

 

     「とりあえず皆が揃うまで、しばらく城内でゆっくりしてくださいと兄様から言付かってます」
     「そうか」

     アーサーやオイフェもまだだと言うし、ファバルもいつもいつも最後と言う訳ではない。
     だが領主が全員揃っても、会議が始まるには少しの猶予があるだろう。

     「……その間に、少しセリス様と話がしたい。取り次いで貰えるかい、ユリア?」

     僅かに緊張したようなスカサハの面持ちに首を傾げながらも、彼女は『ええ』と頷いた。

 

 

     「今日はまず、皆に報告がある」

     一刻(二時間)後、揃った領主たちの前でセリスはそう口にした。

     大広間に用意された席にはセリス、ユリア、それにグランベル各地を治める各領主の姿がある。
     だがセリスの視線はその中で不自然にぽっかりと一つ空いた席を見ており、
     シアルフィ公爵オイフェ、ユングヴィ公爵ファバルが、互いの顔と空席を見遣っていた。
     

     「セリス様、ティニー殿は?」

     領主会議は、基本的にグランベルを共同統治する全ての公爵が出席する事が前提となっている。
     従って領地内の事故や急病などで誰かが欠席せざるを得ない時は、日を改める事が通例だったのだ。
     だが今回セリスは、フリージ公爵ティニーが欠席のまま会議を決行した。
     もしや彼女が重い病にでも臥せっているのだろうかと心配そうに口にしたオイフェに、だがセリスは微笑して頷いて見せた。

     「うん、報告とはそのティニーの事なんだ。
      皆も彼女とシレジア王セティが、以前から将来を約束した仲である事は知っていたと思う。
      実は先日セティ王から、正式にティニーをシレジアの王妃に迎えたいという請願があり、了承した」

     『おお…』と感嘆の声を漏らしたのはオイフェで、ファバルは尻上がり気味の口笛を吹いてみせた。

     「婚礼は十日前、フリージ領内の教会で行われた。
      式はコープルに取り仕切って貰い、立会人は彼女の兄とその妻、アーサーとフィーに務めてもらった。
      今日のこの場での発表と合わせて、シレジアでも正式に国民の前に妃として公表される事になっている」

 

     フリージ公爵家の領地と爵位を返上し、以降然るべき後継者が現れるまでバーハラ王家にその管理を委託する事、
     シレジアとグランベルを結ぶ街道が雪に閉ざされる前にと、婚礼が急遽行われた為、
     協力して貰った兄夫婦やエッダ公爵コープル以外の諸侯に何の沙汰も出来なかった非礼を詫びるティニーの書状が示された。

     「いずれ彼女の血族――彼女自身の血筋か、あるいは兄であるアーサーの血筋にトードの聖痕が現れたなら、
      その子にフリージの爵位と領地を返還する気でいる。
      それまでは彼の地をバーハラ王家の直轄地とし、私が代理統治を務めようと思っている。皆も異存は無いだろうか」

     事情を知っていたアーサー、コープルは勿論の事、オイフェやファバルも頷いてみせる。
     スカサハも順に見遣ったセリスの視線に、顎を引くようにして頷いて見せた。

     「ではフリージの事はこれで片が着いたとして、もう一つ早急に皆と検討したい事がある―――スカサハ」

 

     セリスの呼びかけに応じるように、スカサハが席を立つ。
     事前に兄から聞いていた議題とは全く異なる流れに、ユリアが困惑したような表情を浮かべた。

     「僕は一応話を聞いたけど、此処に居る皆の意見も聞いてみた方がいいだろう」

     スカサハが小さく頷いたのを確かめ、セリスがコホンと、芝居がかった咳を一つしてみせる。

     「実は先ほどドズル公爵スカサハから、従兄のヨハルヴァに爵位を譲渡したいと申し出があった」

 

     どう言う事だと囁き合いながら、セリスとスカサハを除いた全員が互いの顔を見合わせた。
     勿論、ユリアもその一人である。
     彼女の一番傍の席はセリスだったのだが、兄は多分、わざと自分を見ようとしなかった。
     顔の前で組んだ手で隠された兄の口元が愉快そうに笑みを刻んでいる事に気付かなければ、
     不安で居ても立っても居られなかったろう。

     「……ヨハルヴァ殿がドズル家を継ぐ事自体には何ら問題は無いが――― 一体、如何なる理由からか?
      何か止むに止まれぬ事情でも?」

     一応その場の最年長者であるオイフェが、皆の表情から共通の意見を汲み取り、口にする。

     「まさか、どこかお身体の具合が悪いのですか?」
     「いいや、何処も悪くないよ。ありがとう」

     心配そうに声をかけてくれたコープルに、微かに笑みを浮かべてスカサハが礼を言う。
     若きエッダ公爵はその言葉にホッと安堵の息を漏らしたが―――ならば、一体どうして爵位の譲渡など考えたのだろう?

     「案外ラクチェ辺りから手紙が来て、ウッカリ里心が付いちまったんじゃねーの?」

     ニヤッと笑ってそう言ったのはファバルだ。
     スカサハの双子の妹であるラクチェは、イザーク王となった従兄のシャナンの妃にと望まれ、共にイザークへと帰った。
     確かに今でも、妹から時折便りはあるが―――かといって、耐えられぬ郷愁を呼び覚ます程の事ではない。

 

     ティルナノグ時代は今でも大事な思い出だが、勿論楽しい記憶ばかりではなく、苦労と貧困の日々でもあった。
     成長期の子供達が身体を損なわないよう、親代わりとなったオイフェやシャナン、エーディンは出来る限りの事をしてくれたが、
     痩せた畑でようやく生った芋だけで一ヶ月食い繋いだ事もあるし、蛇や蛙まで食料にした事すらある。
     お陰でセリスも含めてティルナノグで育った者は、
     『飲み込んで消化出来る物なら、文句を言わずに食べられるだけの忍耐と度胸は付いた』……と、笑い話にしているほどだ。

     国が荒廃の一途を辿っているというのならともかく、シャナンの執政とラクチェの補佐で確実に復興が進む今のイザークに、
     敢えて自分が戻る必要は無いだろう、と言うのが本音である。

 

     「今まで敢えて公にはしませんでしたが、私は終戦後も、シレジアのセティ王と個人的な親交がありました」

     スカサハの言葉に、皆は黙って耳を澄ませた。

     血を分けた兄弟同士が今も親密に遣り取りを交わす事例も珍しくは無いが、
     例え血縁が無くとも、遠く離れた国を治めながら今でも互いに親交の深い者は数多い。
     セリスとアグストリア諸侯連合の長となったアレス、新トラキア王国のリーフ王などもその一例だ。
     またヴェルダン王国の王となったレスターは、国境を接する事と、
     妹を妻にした縁でファバルの治めるユングヴィ領と特に親交がある。

     だがスカサハとセティと聞いて、皆が瞬時に思い浮かべた事は唯一つ―――
     それは互いに想う者がありながら、敢えて彼等が一時の別離を選んだと言う事実だった。

 

     「……私も彼も思う所あって、自分にとって一番大切な人を国に連れ帰る事が出来なかった。
      その辺りの事情は、今更説明しなくとも皆お判りだと思います」

     この場にユリアが同席している事もあって誰もはっきりと言葉にはしなかったが、それは周知の事実であった。

     セティの恋人であったティニーは母の生家であるフリージ家の汚名を雪ぎ、その領地を復興させる為にグランベルに留まり、
     そしてユリアはナーガの聖痕を継ぐバーハラ王家の直系として、王となった兄の補佐をする為にバーハラに残った。
     今は互いの治める地の復興に尽力し、いつの日か必ず再び手を取り合おうと誓って―――

 

     「つい先日にも、セティ王から便りを頂きました。
      彼らしく控えめに―――だがこれ以上は無いと言える程の至福を、ただ一言に込めて」

     その言葉を目にした時、確かに自分は彼に背を押されたような気がしたのだ。
     時は満ちたのだ……と。

     「セティは…何て?」

     彼の義兄であり、義弟でもあるアーサーが促す。
     魔道士でもなく、ましてや血縁関係も無いスカサハとセティに今でも特別な親交があった事は、アーサーにとっても意外だった。
     理由を聞いてしまえば、なるほど納得だが……一体彼は、スカサハに何を伝えたのだろう?

     スカサハがユリアを見る。
     彼女も息をひそめるようにして、じっと自分を見詰めていた。

     「……シレジアに、ようやく待ち望んだ妃を迎える事が出来た―――と」

     ユリアは思わず、手で口元を覆った。

 

     ティニーの輿入れに関しては兄やアーサー達も噛んでいるので、勿論ユリアも承知していた。

     セティが彼女を正式に妃としてシレジアに迎えたいと申し入れに来た時、胸がざわつかなかったと言えば嘘になる。
     スカサハとセティがそうであったように、自分とティニーもまた親しく便りを交わす仲だった。
     愛しい人の傍に居られない辛さや、そうせざるを得なかったと思い至るまでの苦悩なども、互いに慰めあったのだ。

     そのティニーは王妃としてシレジアに迎えられ、彼女の残した爵位と領地は一時的にバーハラ王家の預かりとなった。
     だが自分は―――?

     ……正直ユリアには、判らなくなっていた。

     すぐにでもスカサハの元へ行きたかった。
     ティニーのように、愛しい人の傍で生きたかった。
     ナーガの聖痕を持つ者として、自分は一体どうするべきだったのだろうか……

 

     「……この一年半、ずっと考えていた事があります。
      セティ王がいずれティニーをシレジアの王妃として迎える事は、想像に難くない。
      だが私は……私とユリア皇女は、彼等と同じ道を取る事は出来なかった」

     ユリアの手が、そっと額冠に触れる。
     ナーガの聖痕は額の中央に浮き出る。額冠の飾り石はただの装飾ではなく、その『印』を隠す為に存在しているのだ。
     自分がナーガの継承者でさえなければ、もしも兄が父方のバルドではなく、ナーガの血に覚醒してくれていたのなら―――
     自分の心に正直に、彼の妻となる事を迷い無く選べただろうに。

     「グランベルの王位はセリス様が継がれたとはいえ、バーハラ王家の直系の証であるナーガの聖痕はユリア皇女にある。
      彼女の血統を王家に残し、次代に存続させる事を望むのなら―――私には、一つの方法しか思い浮かばなかった」

     スカサハが真っ直ぐセリスに向かい合い、敢えて臣下の礼を取りながら深々と頭を垂れた。

     「どうか御妹君、ユリア皇女との婚姻をセリス王に認めて頂きたい。
      私は公爵位を従兄のヨハルヴァに譲渡し、以後はバーハラ王家の為に一生を捧げたいと存じます」

 

     シン……と、一瞬の静寂が下りる。
     だが次の瞬間、次々に湧き起こった拍手に広間は満たされた。

     「……と、言う事だそうだよ。ユリア、返事は?」

     ニヤリ、と悪戯っぽい表情を浮かべたセリスが、隣の席を振り返る。

     「私……?」

     ユリアは突然の事に呆然としていたが、兄の声に夢から醒めたような顔をした。

     「兄様……私、それで良いのですか……?」
     「良いも悪いも、君の返事次第だよ」

     尚も困惑した様子の妹の肩をあやすように抱き、セリスが言葉を続ける。

     「スカサハはドズル公爵家をヨハルヴァに任せて、自分はバーハラ王家に婿に入ると言ってくれているんだ。
      僕もラナも反対する気は無いし、どうやら他の公爵家も異存はなさそうだしね。それに……」

 

     セリスが控えていた執事に広間の扉を開けさせると、そこには意外な人物の姿があった。

     「遅い!冷える廊下でどれだけ人を待たせる気だ!?」

     寒そうに腕を擦りながら、着慣れない礼服に窮屈そうに身を包んでいるのは他でもないヨハルヴァである。

     「ヨハルヴァ!?」

     スカサハも驚いたように目を瞠る。
     どうやらヨハルヴァがバーハラに来ていた事は彼も知らなかったらしい。

     「どうして此処に居るんだ?留守を守ってドズルに残っていたんじゃなかったのか?」
     「そのつもりだったさ。三日前セリス王から、直々に便りを賜らなければな」

     言ってる傍から、『へっくし!』と立て続けに大きなクシャミが出る。
     急遽彼の為に、温かなお茶が用意される事になった。

 

 

     「待たせて済まなかった。本当はもう少し段取りを踏んで話を進めるつもりだったんだが、予定の変更があったんでね。
      最も効果的な登場をして貰う為には、少し寒い思いをして待機していて貰わなくてはいけなかったんだよ」
     「全くだ。何だってこんな急に広間の前で詰めていろ何て言われるのかと思いきや」

     スカサハの席はユリアの隣に新しく用意され、ヨハルヴァにはドズル公爵の席が改めて明け渡された。
     正式な披露目などは後日になるだろうが、セリスと他の公爵が全て承認した事で、事実上この場で爵位は譲渡されたのである。
     温かいお茶で少しは身体が温まったのか、ようやくクシャミの発作の収まったヨハルヴァはジロリと従弟を睨み付けた。

     突然セリスから『スカサハに代わって爵位を継ぐ気があるか』と便りを寄越されただけでもぶっ飛んだが、
     爵位の譲渡とスカサハの婚姻の件で、内密にバーハラに来いと呼び出されるし、
     来たら来たで問答無用で礼服に着替えさせられた挙句、氷室のような廊下で四半刻(三十分)も待ちぼうけを食わされた。
     恨み言の一つも言いたくなると言うものである。

     「実はね、同じ境遇であったセティとティニーの婚姻も為された事だし、
      君とユリアの事も、この際だから一気に話を進めてしまうつもりだったんだよ。
      僕が考えていた筋書きも、君の考えとほとんど同じだった。
      ただ君が、僕とユリアの立場に遠慮して切り出せないでいるのなら、そのきっかけを提供しようと思っていたんだ」

 

     つまり領主会議の席でセティ達の婚姻を発表した後、
     セリスは無理矢理にでもスカサハにヨハルヴァへのドズル公爵位の譲渡を承諾させ、
     彼をバーハラ王家に迎える心積もりでいたのである。
     ヨハルヴァには計画の詳細を記した便りを予め寄越しておき、
     その気があるのなら領主会議の際にスカサハには内密でバーハラへ来るようにと指示していたのだ。
     ちなみにユリアも、全く詳細を知らされていなかったのだそうだ。

 

     「バーハラ王家を継いだものの僕にナーガの聖痕は無く、恐らくは僕の子もバルドの直系として血を受け継ぐだろう。
      ナーガの血脈を王家に残そうと思えば、ユリアはドズル公爵のスカサハとは一生一緒になれない。
      スカサハがユリアをドズル公妃にと、今に至るまで言い出せなかった理由が此処にある」

     血統によってのみ王位が受け継がれるのでは無いにしても、
     やはり聖遺物の継承が為される直系の血は王家に残すべきだという考えは、暗黙の内に根差していた。

     ナーガの継承者でなくとも、民衆はセリスを支持した。
     共に戦った仲間達もセリスがグランベルを治めるのが最も良いと判断して、セリスは王位につく決心をしたのだ。
     だがやはり、直系の証を継承した者が簡単に王家を離れる訳にも行かず、ユリアはバーハラに残る事を決めたのである。

     スカサハもユリアも、共に同じ立場の公爵であったならばもう少し話は簡単だったのだ。
     ティニーがシレジア王セティに嫁したように、いずれ生まれる子や孫に血が継がれれば問題は無い。
     だがバーハラ王家はユグドラル全土の復興の旗印であり、また聖戦士の末裔の長となるべき立場にあった。
     その血を継ぐ者が、王家を離れて嫁す訳にはいかなかったのである……

     「そこで俺に爵位の譲渡をした上で、スカサハがバーハラ王家に婿入りする計画を思いついたんだな」

     『そうだ』とセリスが頷く。
     ヨハルヴァにスカサハに代わってドズルを治める意思がある事を確かめ、爵位譲渡の段取りをつけたまでは良かった。
     だが計画の微妙なズレは、その後スカサハ自身によって持ち出されたのである。

     「まさかこのタイミングで君から爵位の譲渡と、バーハラ王家への婿入りを切り出されるとは思ってもみなかった」

 

     そう―――バーハラ到着直後、スカサハが予めセリスに会ったのはその一件の打診だったのだ。
     セリスとしても自分が話を推し進めるよりは、
     スカサハの自発的な意思の元での爵位譲渡と婿入りが望ましかったから、渡りに舟だった。
     だがお陰でヨハルヴァを公式な場に出す段取りが狂ってしまい、急遽広間の外で待機していてもらう事になってしまったのである。

     「俺はもうしばらく別室で待機していて、意見が纏まったら顔を出して、正式に爵位を継承する筈だった。
      困ったり迷ったりしてるお前たちを説得して納得させる手順が丸々無駄になったから、その分段取りが狂ったんだ」

     ヨハルヴァは詰めた襟元が窮屈で仕方ないらしく、今では上衣の一番上のボタンは開けてしまっている。
     そのフランクさに気が合ったのか、ファバルも一緒になって上衣の襟を緩めていた。
     オイフェはやれやれというような顔をしたが、今更彼等を咎めるような事はしなかった。
     形式は重要だと思うが、共に同じ戦を生き残った朋友達だけに気心は知れている。
     切羽詰った議題ならばともかく、話し合われている内容が内容なので、この程度は勘弁しておくかという気分になったのだろう。

     「全ての段取りは整った。スカサハは明確に自分の意志を示し、君との婚姻を望んでいる。
      その手を取るかどうかは、君自身が決める事だよ」

 

     セリスの言葉がユリアの返事を促す。
     コープルやアーサーは我が事のように嬉しそうにニコニコとしていたし、オイフェは感慨深げに小さく頷いてくれた。
     ファバルとヨハルヴァはと言えば、ユリアがどう返答するのか楽しんでいるようにも見える。

     微かに俯いたユリアは、小さな声でスカサハに問いかけた。

     「……スカサハ、本当にいいの?」

     自分は決して、健康とは言えない。
     いつか彼と一緒になれる日を夢見てはいたが、自分が妻として一生彼を支えられる自信は無かった。
     いつか病に倒れるかもしれない。子を成して血を残す事さえ、可能かどうか判らない。
     王妹の夫として国政に関わる事になれば、それだけでスカサハの心労は増える。それでも、自分を選んでくれるのかと。

     だがスカサハは、ユリアの手を取ると微かな笑みを浮かべた。

     「人の寿命なんて、所詮は神様にしか判らないよ。今身体が弱いのだとしても、これから少しずつ健康になればいい。
      今までも俺は君を守りたいと思って来たし、これからは傍にいて支え続けたいと思っている。
      ただ君と一緒になって、これから先の人生を共に生きていきたい。それだけでは、駄目か?」

 

    スカサハを映すユリアの瞳から、はらはらと涙が零れ落ちる。
     自分と言う存在以外何も望まない無償の想いを、これほどに彼に愛されていた事を、今初めて知ったかのように。

     不安に思う事など、何もなかったのだ。
     ティニーがそうしたように、スカサハが手を差し伸べてくれたように、自分も心に正直に生きていいのだと。

 

     「さあ、スカサハ」

     ユリアの涙を拭うスカサハに、セリスが囁きかける。
     スカサハも、力強く頷き返した。

     「ユリア、これからは傍に居てずっと君を守るよ。俺と一緒になってくれるかい?」
     「ええ、スカサハ。喜んで貴方の妻になります」

     二人の手がしっかりと握り合わされた瞬間、広間は再び祝福の拍手で満たされた。

 

 

     「よーーし、そうと決まったらさっさとドズルに戻って、サクっと爵位継承の披露目とお前の婚礼の準備をするぞ!!
      ほらスカサハ、お前もグズグズすんな!!」
     「何、おいヨハルヴァ…!?」

     猫をぶら提げるように従兄に襟首を掴まれて、スカサハがズルズルと広間の大扉に引き摺られる。
     呆気に取られたユリアを振り返ると、ヨハルヴァは悪びれた様子も無くひらりと手を振って見せた。

     「悪いね、お姫様。恋しいのは判るけど、あともうしばらくの間だけスカサハを借りるよ。
      今は何処もギリギリの統治をしてるから、持参金なんて物はこいつの私物以外、大した物を持たせてやれないけど、
      王家への婿入りとなったら、せめて何処に出しても恥ずかしくない程度の婚礼衣装くらいは準備しなくちゃいけないしな。
      でもその準備が全て終わったなら、こいつはもう一生お姫様の物だ。
      返品不可だから、例え愛想が尽きても実家に返すなんて言い出さないでくれよ」

     あまりと言えばあまりな放言を呆然と聞いていたユリアが、やがてクスッと笑う。    

     「愛想なんて、尽かさないから大丈夫です」
     「なら、結構だ」

     ニヤッとヨハルヴァの唇が笑みを刻んだ。
     スカサハを夫にすれば、彼とも縁続きという事になる。
     今後は今までに経験した事の無いような親戚付き合いをする事になるのだろう。
     初めは戸惑うかもしれない。だがその戸惑いもいつかは楽しい思い出になるに違いないという、不思議な確信があった。

 

     ユリアの面に浮かんだ笑顔を見て、セリスは妹の内なる変化を感じずにはいられなかった。
     出会ったばかりの頃は儚げで、触れれば壊れてしまいそうな気がしたものだ。
     だが仲間と触れ合ううちに、更にスカサハと心を通わせた事で、ユリアは確実に少しずつ明るさと内面の強さを取り戻していった。

     しばらくは彼女自身が不安に思うように、時折体調を崩す事もあるかもしれない。
     だがスカサハと共に生きていく事で、きっと強くなれるだろう。
     彼女が花だとすれば、スカサハはその花の命を支える太陽なのだから。

          

     「……と言う訳で、次に集まるのはこいつと姫様の婚礼の時で良いよな?」
     「ああ、よろしく頼むよ」

     色んな意味で型破りな公爵に、セリスも苦笑を浮かべるしかない。
     今度スカサハがこの城に来る時には自分の義弟になるのだと思うと、ほんの少しこそばゆい気もした。

  

     ―――寡黙な心優しい太陽と、慎ましく微笑む花に永遠の祝福を。

     王という立場を離れてセリスが願うのは、ただ妹と親友の幸福だった。        

 

 

     それから約一ヶ月後、元ドズル公爵スカサハと王妹ユリアの婚礼の儀式が行われた。
     二人はコープルの采配で婚姻の誓いを交わしたのみで、諸国の有力者を招いた宴などは行わなかったのだが、
     それでも王城で行われた国民への披露目の席には、一目彼等の姿を見ようと数え切れない程の民衆が押し寄せた。
     グランベルの各公爵家や諸国に散ったかつての朋友達からは、二人の婚姻を祝福する祝いの品やカードが贈られたという。

 

     ヨハルヴァに公爵位を譲渡して王家に婿入りしたスカサハは、以降セリスの片腕として政務の補佐を務め、
     ユリアは義姉のラナと共に長きの戦乱で親を亡くした子供達の保護と教育に積極的に取り組み、
     どちらも長くグランベルの歴史に名を残した。

     二人の間には数年後に一人娘が授かり、親子末永く、仲睦まじく暮らしたという。

                                                                 【FIN】


    あとがき

     ずっと前から構想はあったにも関わらず、なかなか書く機会に恵まれていなかったスカユリの完結編です。
     微妙にセティニーの『長い夜を越えて』とも連動しています。
     その関係で、昨日『長い〜』のラスト付近の記述を若干手直しました(苦笑)
     今回スカユリの婚礼時期を特定してしまったので、そのままだと矛盾が起きてしまうので止む無く。

     と言う訳で、ウチのスカサハ君はバーハラ王家の婿養子さんになりました(笑)
     ユリアとの間に生まれた一人娘にナーガの聖痕が現れて、後にセリスとラナの間に生まれた長男と結ばれる事になります。
     かなり血が濃くなってしまいますが、近い従兄妹間の婚姻も彼等の代くらいまでなので、まあ何とかなるかなと。
     ユリアとセリスでは父親が違うので、兄妹とは言ってもシグルドとエスリン程には近くないだろうし。
     それを言ってしまえば、トラキアの方でも色々あるんですけどね…(FE別室の設定を参照)
     血統が全てではないけど、やっぱり一番強く力を受け継いだ者がいずれ家督も継いで行くという考えがあると思うのです。
     これからは平和な世界になるだろうから、本当は少々血が薄くなったくらいの方が良いのかもしれませんが(笑)

     スカサハやセリスの一人称が、所々で違うのは間違いじゃありません。
     公人としての一人称は共に『私』、私人としての一人称はセリスが『僕』で、スカサハが『俺』です。
     スカサハ→ユリアに対しては『僕』にしておこうかと微妙に迷いましたが、イメージが湧かなかったので『俺』で統一(^_^;)

                                                麻生 司

 

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