未だ北風が厳しく、相変わらず通りを歩く人の足が速い春の初め。
ダーナの裏通りの一角にある修道院の前に、背の高い壮年の男が立った。
彼は錆び付いた門扉を軋ませながら通り抜けると、扉に付けられたノッカーを数度鳴らした。
「どちら様?」
しばらく後に中から扉を開けたのは、初老を迎えた女性―――粗末だが清潔な衣服を身につけたシスターだった。
見知らぬ男の来訪に怪訝そうな面持ちになる。
近所に住む者が訪ねて来る事はあっても、見ず知らずの者が訪ねてくる機会など滅多にあるものではなかった。
ましてやそれが武器を帯びた体格の良い男であるなら尚更だ。
以前に比べて治安が良くなったとは言え、野盗の類が居なくなった訳ではない。
だがそんなシスターの心情を察したのか、男は余計な威圧感を与えぬよう一定の距離を保ったまま、自らの名を口にした。
「初めてお目に掛かる。私は新トラキアはレンスターの騎士、フィンと申します。
以前此方でお世話になっていたリーン殿にお話を伺って参りました」
「まあ、貴方がフィンさんでしたのね。これは失礼を致しました」
リーンの名とフィンの名乗りを聞き、シスターの緊張が一瞬で解ける。
彼を迎え入れる為に、大きく扉を開け放した。
「リーンから便りを貰って事情は存じ上げておりますわ。
さあ、どうぞお入りになって。まずはお茶でも差し上げながら話をお聞かせしましょう。
その後、目的の場所にご案内致します」
Reunion
「ここからあの娘が旅立って、もう三年になります。
貴方が最後に会った時、リーンは元気にしていましたか?アレスさんもお変わりない?」
お茶の支度をしながら、手は休める事無くシスターが声を掛ける。
旅装を解き、暖かな部屋に通されたフィンは、穏やかな笑みを浮かべて『ええ』と頷いた。
「リーン殿もアレス王子も、戦場以外では片時も離れる事が無いほど仲睦まじく。
今はお二人とも、ノディオンでお元気に過ごされているかと」
「そう、幸せにしているのですね。貴方からそう聞かされて、ようやく安心出来ました。
あの子は昔から我慢強い所があって、辛くてもその辛さを口にしない子でしたから」
フィンも小さく頷き返す。
リーンは自分がどんなに辛くとも、その辛さを押し隠し仲間を支えるだけの強さを持っていた。
共にダーナを離れたアレスとの不仲を心配したわけでは無かったのだろうが、
娘同様に十数年育てたリーンの幸福な様子を、客観的に知る事が出来てより安堵したのだろう。
「それで―――リーンからは、何処までお聞きになっていますの?」
コトリと目の前に置かれたカップに視線を落としたまま、フィンは静かに目を伏せた。
リーンが突然フィンの部屋を訪れたのは、聖戦が終結し、各々が縁の地へと旅立つ前夜の事だった。
「バーハラを発つ前に、フィンさんにお話しておきたい事があったんです」
「私に?」
アレスも伴わず、たった一人で訪ねて来たリーンに正直フィンは驚いた。
今まで特に親しく会話を交わす機会も無ければ、互いに親子程の歳の差があった事もある。
真剣な面持ちで、コクンとリーンが頷いた。
仲間になったばかりの頃はまだ幼さを残していた面差しも、今はすっかり大人びたものとなっている。
母親のシルヴィアの面影を残してはいたが、明るい空色の瞳のせいだろうか、父親であるクロード神父にもよく似ている気がした。
「最近になって思い出したことがあって……それは実を言えば、ナンナに初めて会った時から引っかかって居た事ではあったんですけど」
「ナンナに?」
ナンナはフィンの実の娘である。
不意に出て来た娘の名に怪訝そうな表情を浮かべた彼の前で、リーンは『ええ』と呟いた。
「ずっと昔に、ナンナとよく似た人に会ったような気がしていて―――だけど、それが誰かまでは判らなかった。
でもついこの間、ナンナとデルムッドのお母様……つまり、フィンさんの奥様がラケシスという名だと聞いて……思い出したんです。
私は子供の頃、ダーナでラケシスと言う名の女性騎士と会った事がある。
金茶色の髪に鳶色の瞳の……とても、綺麗な女性(ひと)だった」
「何…だって―――!?」
思いもかけなかった人物から十数年前イードで消息を絶ったラケシスの名を聞き、フィンは驚きに目を瞠った。
「……当時リーン殿はまだ四-五歳で、彼女が朧気に憶えている事と、私の妻であった女性の身に実際に起きた出来事が正しいとは言い切れない。
だから彼女は一切憶測を入れず、ただ自分の知っている事実だけを話してくれたのです。
その上で詳しい話は、実際にダーナを訪れて貴女から伺った方がいいだろうと言ってくれました」
「あのラケシスさんがリーンを見初めたアレス殿の叔母に当たる方で、
そしてそのラケシスさんのご主人である貴方とリーンが解放軍で出会うとは……これもご縁なのでしょうね」
シスターは胸の前で聖印を切り、感慨深げにフィンを見遣った。
「―――ラケシスさんがダーナを訪れたのは、今から十数年前の、今日のように肌寒い日でした」
ダーナの下町の宿に悲痛な叫びが響いたのは、すっかり夜も更けた頃だった。
その宿の主がこの辺り一帯の住民の束ね役だった為に、遅い時間ではあったが駆け込んで来たらしい。
騒ぎを聞きつけた近隣の住民も次々と集まり、あっと言う間に小さな宿は人で溢れ返った。
集まったその人だかりの中にシスターも居たのだと言う。
その頃には、宿に部屋を取った客たちまで何事かと集まっていた。
「子供達が攫われたんです」
涙ながらに、母親達は訴えた。
後を継いだ父親達の話によれば、ここ数年ダーナ近郊のイード城に住み着いた暗黒教団の一党が、
生まれて間もない赤ん坊からようやく歩き始めたばかりの子供ばかりを三人、狙いすませて攫って行ったのだと言う。
「暗黒教団と言えば、生贄がどうとか噂が……」
「まさか生まれたばかりの赤ん坊を……?」
「可哀想に、今頃はもう……」
ひそひそと囁かれる声に、母親たちは再び泣き崩れた。
腹を痛めて生んだ子供達が暗黒神の生贄にされるなど、自分が殺されるより辛い事だ。
シスターは母親たちを必死に慰めた。
気休めに過ぎないかもしれないが、希望を失ってしまえば僅かな可能性まで閉ざしてしまう。
住民が団結して領主のブラムセルに掛け合えば、或いは討伐隊を組織して貰えるかもしれない―――実現する可能性は限りなく低かったが。
例え領主の後見を得られなくても、助けに行こうと名乗りを挙げる者も居ないではなかった。
だが暗黒教団と言えば、闇魔法の使い手でもある。
迂闊に乗り込んでも犠牲者を増やすだけだという声があがると、一息に場の意気が下がってしまった。
街の治安を預かる領主は当てに出来ない。
暗黒教団を相手に戦うには、あまりにも戦力が乏しかった。
実戦経験の豊富な傭兵団などを雇えればまた状況が違うだろうが、生憎と頼りになりそうな者達はダーナに立ち寄っていない。
攫われた子供達は死んだものと諦めなくてはならないのか―――誰の頭にも暗い結末が過ぎった、その時だった。
『私が行きます』という、凛とした声が上がったのは。
「その方は二十歳を幾らか過ぎたくらいの、金茶色の髪に鳶色の瞳をした、まだ若い女性騎士でした。
質素な旅装束ではありましたけど、滲み出る気品というのは隠せる物ではありません。
其処に居られるだけでハッと目を瞠るような美しい方だった」
「――― それが、ラケシスだったのですね」
『そうです』とシスターは頷いた。
―――事情があって今は離れて暮らしていますが、私にも子が居ます。
その子が攫われ、生贄にされるとしたら……ジッとなどしていられない。
「そう言って、夜更けであったにも関わらず、ラケシスさんは直ぐに宿を出てイード神殿を目指されました。
子を奪われた母親達を、見捨てる事が出来なかったのでしょうね」
「……母としての想いが、彼女を衝き動かしたのでしょう」
フィンは瞑目した。
「―――私たちには二人の子が居ります。
娘はレンスターで生まれ育ちましたが、先に授かった息子は事情があって手元で育てられず―――友人の手によってイザークで育てられていた。
ラケシスは息子を呼び寄せ、共にレンスターで暮らす為にイザークを目指していたのです。
彼女からの最後の便りは『明日イード砂漠を渡る』……だった。
恐らく子供達を救いに行くと名乗りを挙げる直前に、宿で書かれたものだったのでしょう」
目的を果たす為には、関わるべきではなかった。
一人で闇魔道士達の巣窟に乗り込むなど、如何に危険か彼女なら判っていた筈である。
―――だが彼女は、自分が子供達を救い出してくると名乗りを挙げた。
彼女も子を持つ母であったが故に、同じ母親の嘆きを見捨てる事が出来なかったのだろう。
それから一週間後―――攫われた三人の子供を抱いて、ラケシスはダーナに戻って来た。
子供たちは疲労し、少し痩せてはいたが、三人とも怪我一つ無かった。だが、しかし―――
「子供達に僅かの怪我も無かったのは、恐らくラケシスさんが治癒魔法で癒してくださったのだと思います。ですが……」
「……治癒魔法は術者自身を癒さない―――そうですね?」
フィンの言葉に、沈痛な面持ちでシスターは頷いた。
「ラケシスは女性ながら、マスターを名乗る事を許される程に優れた騎士でした。
相手が闇魔道士と言えども、自分一人であったなら恐らく遅れは取らなかったでしょう。
だが救い出した子供達を守るには……自分自身を盾にするしかなかった」
「手遅れだったのです。ラケシスさんの負った傷は、あまりに深過ぎた。
手当てが早ければまだ助けられたのでしょうが、傷付いた身体を盾にして子供たちを守り、幾人もの闇魔道士を相手に一人で戦って……」
三人の子供を抱いてダーナに辿り着いた時、既にラケシスは手の施しようが無い状態だったのである。
「少しでも苦痛を和らげられるよう、治癒魔法を施せる私の所へ運ばれてきました。
その時初めて、私はあの方の名が『ラケシス』だとお聞きしたのです。
ですがラケシスさんは、その名を口にする事を私に禁じました」
――― その名は貴女の胸の内だけに止めて、そして夜が明けたら忘れてください。
私の事を深く知れば、何の関係も無い貴女達にまで迷惑が掛かる。
苦しい息の下、彼女はそう言った。
ラケシスと言う名の女性騎士が、シグルド軍に加担した一人として賞金首になっていたという話は随分後になって知った事である。
「治癒魔法は気休めにしか過ぎませんでした。
それどころか、かえって苦しみを長引かせているのではないかとも思いました。それほどラケシスさんの傷は深かった。
傷から出た高熱が引かず、少しでも楽になればと氷を用意しようとした時でした。
あの子が―――リーンが、ラケシスさんの休んでいた部屋にやって来たのは」
真夜中であったが、当時四歳になったばかりのリーンが、具合の悪い客人の為に氷嚢を作って持って来たのである。
「お姉ちゃん、早く元気になってね」
向けられた笑顔に、ラケシスは目を細めた。
幼い少女の姿が、レンスターに残して来た娘に重なったのかもしれない。
「……貴女、お名前は?」
「リーン」
「そう……リーンと言うの。
……不思議ね……私、貴女によく似た人を知ってるわ」
そう呟いて懐かしそうな笑みを浮かべたが、リーンに触れようと身体を動かした事が障ったのか、激しく咳き込むと大量の血を吐いた。
シスターは急いでリーンを寝室に帰すと、苦し気な呼吸を繰り返すラケシスに声をかけた。
「ラケシスさん、何方(どなた)かにお伝えしたい事はありませんか?」
ラケシスは既に力の入らなくなった両腕を胸の上に持ち上げると、左手の薬指に嵌められていた指環をゆっくりと引き抜いた。
「これを……」
外した指環を、固く手の中に握り締める―――これが最期の別れと覚悟を決めて。
「……もしも、フィンと言う名のレンスターの騎士が、私の消息を尋ねて来たら……この指環を、渡して下さい。
そして…………帰れなくてごめんなさいと……伝えて」
「確かに、承りました」
シスターの手に指環を託し、『ありがとう』と途切れそうな息の合間を縫うように礼の言葉を口にする。
顔色は蒼白だったが、拭いきれずに口元に僅かに残った血だけが鮮やかな紅色をしていた。
「……フィン……デルムッド…ナンナ、リーフ……」
ヒュウ、と壊れた笛の音のような息が漏れ―――
「貴方たちを………愛しているわ……」
―――鳶色の瞳から、永遠に光が消えた。
「四人の名を呟いたあと、謳う様に『貴方たちを愛している』と―――それが、ラケシスさんの最期の言葉。
そしてこれがお預かりしていた指環と、埋葬前に一房だけ切り取って残しておいた遺髪ですわ」
フィンの左手の薬指に今も嵌められている指環と、対を成す指環が彼の手に乗せられる。
清潔な真白い布に包まれた遺髪は十数年の時を経て艶こそ喪われていたが、懐かしい金茶の色合いは当時の彼女を思い出させた。
ラケシスの最期の言葉は、夫婦の誓いを交わした自分と腹を痛めて産んだ子供達だけではなく、
家族としてリーフも心から愛してくれていた事に改めて気付かされ、胸が詰まる。
「最期まで大切に握り締めていらっしゃいました。やはり想い出の品だったのですね」
「―――これは、私が彼女に一番最初に贈った品です。
夫婦の誓いを交わした際にも、証にするのはこの指環が良いと……そう、言ってくれた」
王女であった彼女に、真に相応しいと言えるほど高価な品では無かったけれど。
それでも自分が迷いに迷い、意を決して買い求めたその贈り物を、彼女はとても喜んでくれた。
シレジアとレンスターに遠く離れる際にも、この指環を証として、変わらず身につけると誓いを立てた。
どんなに遠く離れていても、この指環がいつでも彼女と自分を繋いでいるのだと信じていられた―――今、この時にも。
「その一件があってからです。先代の領主だったブラムセルが独自に傭兵団を雇い、城と城下の警備を任せるようになったのは。
何の縁も無い旅の騎士、しかも女性が命賭けで子供達を救ってくれたのに、本来街と民を守るべき領主は何もしてくれないのかと……
余程耳が痛かったのでしょう」
「そうだったのですか……」
フィンはラケシスの指環を握ったまま、拳に視線を落とした。
すぐにジャバローの率いる傭兵団が雇われた訳ではない。
十年の間に様々な傭兵団が雇われ、最終的に最も長く留まったのが彼の傭兵団だったらしい。
例え重傷を負ってレンスターに戻れなくなったのだとしても、生きてさえいればラケシスは甥のアレスを見出すチャンスがあった事になる。
結局彼女は回復せぬまま息絶える事になったが、後にアレスがこの街にやって来るのは、叔母であるラケシスの死がきっかけだった。
後にアレス本人から聞いた話では、彼も唯一の肉親となったラケシスの消息を探し求めていたという。
旅から旅を続ける傭兵団に長く身を置き先々で尋ねるも、何処でもその消息は掴めず、やがて叔母も既に故人となったのだと諦めてしまったのだそうだ。
まさか最も長く留まっていたダーナにその叔母が葬られていたとは、何と数奇な運命なのだろう。
「……すっかりお茶も冷めてしまいましたね。
それではご希望通り、ラケシスさんを埋葬した場所へご案内しましょう」
穏やかな表情を湛え、シスターが静かに席を立った。
墓所は修道院の裏庭に在った。
「此処は私のように、生涯をこの修道院で暮らした者が葬られる場所。
稀に旅の途中、この街で亡くなられた方も此処に葬られるのです。ラケシスさんの墓碑は―――あちらですわ」
シスターが指し示したのは、幾つかの墓碑が並んだ一角の一番端、恐らくは最も新しい物だった。
新しいと言っても既に十年以上が経過している筈だが、たまたまその間此処に葬られる者が居なかったのであろう。
「私は先程の部屋に戻っています。どうぞごゆっくりなさって」
「ありがとうございます」
十数年の時の果てに妻の死を確信したフィンを気遣い、シスターが席を外す。
墓碑の傍には冬咲きの小さな花が揺れ、よく手入れがされていた。
「―――ラケシス、迎えに来たよ。遅くなって済まなかった」
跪き、フィンは冷たい墓碑にそっと手を触れた。
「どれほど遠く離れていても、心は傍に在ると信じて疑った事も無かったが……やっと会えたね。
君が此処で出逢った女の子が成長して解放軍へと加わり、其処で出逢った僕に君の事を教えてくれたんだ。
しかもその女の子……リーンは、君がずっと気に掛けて捜していた、甥のアレスの花嫁になったよ―――不思議な縁だろう?」
もしも生きて再び見えていたなら、彼女は何と言ったであろうか。
『本当に不思議な事もあるものね』と、笑って目を細めるか。
或いは『自分という存在が縁になったのかしら』と納得するだろうか。
アレスの花嫁となったリーンもまた、かつて仲間であったクロード神父とシルヴィアの娘であると知ったら、なお驚く事だろう。
「君の故郷、ノディオンにはアレス王子と、妃となったリーンが共に帰国し、今は順調に復興の道を歩んでいる。
デルムッドがアレス王子の補佐をしているよ―――とても良い青年に育った。
オイフェ殿やシャナン王子のお陰だ」
親として傍でデルムッドを育てる事は出来なかったが、彼はオイフェやシャナン王子の教育で立派な青年に成長を遂げていた。
一人前に育てて貰っただけでも在り難いのに、騎士としての礼儀や作法、更には兵法や算術などの教育もしっかりと授けられていた。
本当に彼らには感謝の言葉すら見付からない。
「……君に再び出会えたなら、二人で旅をしようと決めていた。君と出逢って、共に旅をした土地を。そして僕と君の子が歩いた国を。
今度は移り行く季節や美しい風景を眺めながら、ゆっくりと巡るんだ。アグストリアに行けば、デルムッドやアレスにも会えるよ。
そして――― 一緒に帰ろう。リーフ王子とナンナが待つ、君のもう一つの故郷……レンスターへ」
囁くようなその声に誘われるかのように、薄雲に隠れていた太陽が顔を出した。
頬に触れる柔らかな陽の光が、亡き人の手の温もりを思い出させる。
……否、確かに憶えの有る気配を感じた。
「ラケシス?」
呼びかけに答えたのは、さわりと梢を揺らす風の音。
だがそれは間違いなく彼女の声に他ならなかった。
―――フィン……ありがとう。これでやっと、約束を果たす事が出来る―――
「……ああ、これからはずっと一緒だ。
もう二度と―――死すら僕たちを引き離す事など出来はしない」
淡い冬の陽だまりの中に、懐かしい微笑を垣間見たような気がした。
騎士フィンが新トラキアの歴史に再びその名を現したのは、王女アルテナとアリオーンの婚礼から、約二年後の事であった。
【FIN】
あとがき
アレス×リーンSSを書いている最中、リーンというキャラの個性が自分の中でようやく固まった時点で無性に書きたくなったお話。
イード砂漠を越える途中で消息を絶ったラケシス。
その中継点にあるダーナが彼女の終焉の地と考えれば、ダーナで育ったリーンならば接点があったかもと。
物語の時期的には、『紅い空と大地の上に』の二ヶ月後くらい。つまり聖戦終結後から約一年半後。
トラナナのラストシーンにも一部掛かる内容ですが、リーンにラケシスの死を知らされていたウチのフィンは、
生涯に唯一度だけ私事で暇を貰い旅をするのです。それがこのお話。
トラナナEDの個人エピローグによれば↓
『伝説の槍騎士フィン リーフの即位を見とどけた後 不意に人々の前から姿を消す。
彼が再び姿をあらわしたのは それから三年後の事だった。
「空白の三年間」に彼がどこへ行き 何をしていたか 正史には全く記されていない。
わずかにイード砂漠で 彼を見たものがいるという異聞が残るのみである』
……という事らしいです。
だから本当は聖戦直後にダーナ(イード砂漠含む)に旅に出た事にしたかったんですが、
リーフが今後の為+アリオーンと姉を添わせる為にトラキアに単身赴任(笑)している時に、
娘のナンナにだけレンスター方面を任せて旅をするかなと(^_^;)
したがってウチのフィンが旅に出たのはアルテナとアリオーンの一件が片付き、リーフがレンスターに帰還した後。
レンスターには居たけど、国民の前に表立って姿を見せなかった一年余り+ダーナにラケシスの消息を確かめに行き、
その後彼女の遺品と遺髪を持って縁の在る地を旅したのが約二年=合計三年間、歴史上では消息不明だったという事で。
勿論、リーフには定期的にフィンから便りが届いていましたし、本当に行方不明だった訳ではありません。
長く各地を旅しているものの、身分は隠していたので一般の人が気付かなかったというだけで。
旅の途中に出会った人達(アレスやデルムッド、その他各地を治めていた面々)は事情を知っているので、
彼の訪問の記録を敢えて正史には残さなかったのです。
冒頭に旅立つ直前のリーフとフィンの遣り取りを入れようかなとも思いましたが、蛇足に思えたので止めました。
イード神殿でラケシスがどんな戦いをしたのかもね(^_^;)書いているとキリがない。
子供三人を抱えて闇魔道士の攻撃を凌ぐのがどれ程難しいか、実際に聖戦の七章などをプレイした方であれば想像するのは難しくないと思います。
(ヘルを喰らった後に運悪くフェンリルが当たったりすると、レベルMAXのユニットでも一瞬で昇天する)
あとラケシスの遺品となった結婚指環は、『誓いの指環』でフィンが買い求めた品です。
事実上、聖戦部屋にUPしていたフィンラケ三部作、『微笑みの行方』『何時の日か』『永遠の約束』に続く完結編となりました。
麻生 司
2007/02/22